難しい生活 〜6〜 ページ33
「お水持ってきますっ」
Aは駆け足で水を取りに行く。
「ううっ……」
「フロイドっ。薬、飲みますよ」
「お待たせしましたっ」
走りすぎてグラスから水がこぼれ落ちていたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「ありがとうございます」
ジェイドがフロイドを少しだけ起き上がらせ、薬を口に押し込む。
そして水を含ませる。
「さあ、飲み込んでっ」
苦しそうにフロイドは飲み込んだ。
「口に薬残っていないでしょうね？」
ジェイドが構わずフロイドの口を手でこじ開けた。
「……大丈夫そうだ…」
ジェイドがため息をついた。
「私…、一人で今みたいな事……出来ないかも…」
「……確かに。フロイドをベッドに運ぶのは無理ですね」
「それも…そうですけど…、今…、気が動転して、動けないです…」
Aの足が震えていた。
「Aさんにこんな思いさせてしまって…、本当に申し訳ないですね…」
「ううっ…う……」
フロイドがまだ苦痛な表情を浮かべている。
「薬は…どのくらいで効くんですか？」
「早ければ10分くらいですかね。かなり強い痛み止めですから、一日に１回しか服用出来ない薬なんです」
「そんなに強いの…？」
「恐らく、このままフロイドは眠ってしまうでしょう」
「ただの頭痛じゃ、無いって事ですよね…？」
「そうですね。何が原因か、先生もはっきりとは突き止められなかった様ですが、フロイドがここまで苦しむ程の痛みですからね…。相当なものでしょう…」
「いつか治るんですか？」
「それも、分かりません。頻度は少なくなっていますが、痛みの強さは変わらない様ですね…」
「めまいも…？」
「おかしいですよね。両目を失っているのにめまいなんて。結局は脳に影響があるって事でしょう？」
「そうですよね…」
ジェイドが顔を歪めるフロイドの頭を撫でる。
「こうやって、目を閉じていれば、何も変わらないフロイドなのですがね…」
「はい…」
「目も見えない。頻度が少ないとは言え、激しい頭痛にめまい。今までと同じ生活なんて…取り戻せるはずないでしょう…」
「私が出来る限り手伝います」
「そういう事ではありません。根本的な部分を言っているのですよ」
「根本的…？」
「また、目が見えるようになれば…」
「移植…ですか…」
「月日が経てば経つほど、移植の成功率は低くなるそうです。ただでさえ眼球移植は難しいと言うのに…。最悪でしょう？」
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作者名：魅樹 | 作成日時：2023年6月2日 17時
