見えない生活 〜16〜 ページ16
その後、看護師と医師が駆け付けフロイドの処置を行った。
Aはジェイドと病室の近くにある休憩室で処置が終わるのを待った。
「リーチさん」
医師がジェイドに声を掛ける。
「先生…。フロイドは…?」
「やっと落ち着きました。私も長い事たくさんの患者さんを見てきましたが、弟さんのように突然両目を切り取られるなんて状況、初めてでしてね…。引受けておきながら情けない話ですが…」
「いえ…。普通ではあり得ない事ですから。それを先生は引受けてくださったのですから、感謝しかありません」
「そう言って頂けて助かります…。弟さんの眼球を切り取られた部分からまた出血が見られました。先日上手く処置したのですが、やはり前例が無いと、何が起こるか予想が難しいですね」
「そうですか…」
医師がAを見た。
「弟さんは処置中、Aさんの名前をひたすら呼んでいましたよ。今は限界に近い量の鎮痛剤を投与しているので意識が混濁していますが、一度会ってあげてください。患者さんにとって、臨床的な治療だけでなく、精神的なケアも回復への近道なんです」
「分かりました。Aさん、フロイドに会えますか?」
「はい…」
「弟さんの場合は、精神的なケアが有効だと考えます。もちろん我々も治療はしますが、可能な限り、会いに来ていただけると良いかと…」
「ええ。なるべく来れるようにします」
「では、私はこれで失礼します」
医師は休憩室から出て行った。
2人はフロイドの病室にまた戻った。
「フロイド先輩…」
ベッドでフロイドが静かに横になっている。
「………」
反応がない。
「かなり強い鎮痛剤を投与されているようですね…」
「はい…」
Aはフロイドの頭をそっと撫でた。
「早く…、痛いの無くなると良いですね…」
「……A…」
小さなかすれた声でフロイドがAを呼んだ。
「フロイド先輩?」
「……何しに…来たの…」
「え?」
「…オレの目、……キレイでしょ……」
「フロイド先輩…」
「Aさん。今のフロイドは正気ではありません」
「……はい…」
Aはそのままフロイドの頭を撫で続けた。
「フロイド先輩…。私はここにいますよ…」
「…明日は、……どこ行きたい…?」
「………」
「…A…」
「…はいっ……」
鼻がツンと痛くなる。
そして涙が浮かんできた。
フロイドの顔がぼやけて見える。
「…オレが…いるよ…。…大丈夫だよ…」
「はい」
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:魅樹 | 作成日時:2023年6月2日 17時