見えない生活 〜12〜 ページ12
「寮にまだ残ってますからこのクッキーは全部フロイド先輩が食べて大丈夫ですよ」
「ふふーん。じゃ、さっそく食べよ」
フロイドが指でタッパーの形を確認し、開けていく。
「どお？上手く開けられたでしょ？」
「はい」
Aはベッドの足元にあるテーブルを引き出してフロイドの側まで持ってきた。
「テーブル出しました。置けますか？」
「うん。ありがと」
左手にタッパーを持ったまま、フロイドが右手を伸ばしてテーブルの位置と形を確認する。
そしてゆっくりとタッパーをテーブルに置く。
かなりテーブルの端ギリギリに置いた。
Aはフロイドに気付かれないように、そっとタッパーをテーブルの奥に動かした。
「もう少しフロイド先輩の側にテーブル動かしますよ？」
「おっけー」
「これでどうですか？」
フロイドが両手でテーブル全体の形を触って確認し始めた。
「なるほどね〜。形のイメージは分かったよ〜」
「本当に、頭痛とか、大丈夫？無理してません？」
「Aがいるから大丈夫だってばぁ〜。早く食べようよ〜」
「そうですね。じゃぁ、フロイド先輩、好きなクッキー取ってください」
「うん」
手探りでタッパーの中のクッキーを１枚取る。
そして指で形を確認していく。
「何だこれ…？……犬？」
偶然にも、フロイドが取ったクッキーはAが寮で試した時と同じリスのクッキーだった。
「残念っ！」
「え〜？」
フロイドがもう一度良く形を触って確認する。
「……どうやっても犬だろ…」
「違うんですよ。これは、リスです」
「はぁっ？これがリス？」
「実はね、私も寮で試しにやってみたんです。そしたらこのリスのクッキーをちょうど取ってて、私も犬だと思ったんですよ」
「この形がおかしいんじゃねぇの？」
「でも目で見ると、リスなんですよね…」
「ふーん…」
フロイドがクッキーを口元に持って行く。
少し口の端にクッキーが当たってしまったが、何とか食べることが出来た。
「美味しい〜…。やっぱりAのクッキーは最高だね〜」
「カフェオレ欲しいでしょ？」
「あるの？」
「無いですよ」
「何だよっ。ねぇのかよっ」
フロイドが笑った。
「うふふっ…」
Aも思わず笑った。
「カフェオレも飲みたかったのにぃ〜…」
「さすがにここでは作れないから、買ってきますね」
「いーよ。Aが側にいてくれないとダメ〜っ」
「口の中の水分、全部持って行かれちゃいますよ？」
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作者名：魅樹 | 作成日時：2023年6月2日 17時
