経験者 〜4〜 ページ21
一方。
オンボロ寮。
「小エビちゃん…」
「…はい…」
朝より少しはっきりした返事だった。
「お昼になったから、熱、計ってみよ」
「はい…」
ジェイドがAの熱を計る。
「39.0℃。ちょっとだけ下がったね。スポーツドリンク、飲もっか」
「はい…」
ジェイドがAを抱き起こしてグラスを渡す。
「一人で持てる?」
Aがうなずいた。
そしてゆっくりと飲んでいく。
「頭痛い?」
「うん…」
「じゃ、また薬飲もうね」
ジェイドが薬を出す。
「あーん、して」
Aが言われた通りに口を開ける。
ジェイドは口の中に薬を入れた。
「抱っこは…?」
「うん。してあげるね」
ジェイドは空になったグラスを机に置き、Aを優しく抱きしめてゆっくりベッドに横になった。
「このまま、熱下がると良いね…」
「はい…」
「また、ゆっくり寝ようね…」
「私…、消えちゃうの…?」
「ううん。消えない。オレがいるよ…」
「怖い…」
「大丈夫。怖い事なんて、何にもないよ…」
「ずっと抱っこしててくれる?」
「うん。小エビちゃんが眠るまで、抱っこしてるよ」
「寝た後も…抱っこしててくれる?」
「うん」
Aはジェイドの胸を弱々しく握った。
「ゆっくり、寝ようね…」
「はい…」
しかしAはなかなか眠れない。
「頭痛いの…」
「痛いね…。薬、きっと効くから…」
「…消えそうになったら…、また、噛みついてくれるの?」
「うん。小エビちゃん痛いけどね…」
「本当に消えない?」
「うん。消えない…」
「頭…痛いな…」
「眠れない?」
「寝たいのに…眠れない…」
「オレがずっと抱っこしてるよ…」
「…そっか…」
ジェイドはしばらく黙ったままAを抱きしめていた。
そしてAはやっと眠った。
声を掛けても反応しないことを確認して、ジェイドはそっとベッドから降りる。
そしてフロイドにメールを入れる。
──Aさんの熱は39.0℃でした。
頭痛がすると言うので薬も飲ませました。
少し前にやっと眠ってくれましたよ。
ただ、眠った後もずっと抱っこをしててと、せがまれてしまいました。
フロイドが帰ってきたら、たくさん抱っこしてあげてくださいね。──
すると、間もなく返信が来た。
──サンキュー。
今から帰るから。
もう少しお願いね。──
「随分とあっさりした返事ですねぇ…」
ジェイドはまたソファーに座り、読書を続けた。
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作者名:魅樹 | 作成日時:2023年4月23日 16時