Granatapfel … ＊6

実感する ページ35

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ステージを降りると、まだ篤志さんの歌が残されているにも関わらず、相変わらず真っ黒な服に身を包んだ、大好きな人がいた。

KC「…お疲れ様。」

優しく、そう囁いて、微笑みかけてくれる。


昨日も、ステージを降りた後に篤志さんと楽屋に向かい、将ちゃん、ねっさん、啓司くんを見つけた瞬間に涙が溢れ出た。

にこやかに迎えてくれた彼らに、無事に大先輩のステージの成功をお手伝いできたのだ、と安心することができたからだと思う。


今日は。


ふらふらと歩み寄り、ずっと震えていた手を、ケンチさんの方に向けて伸ばすと、グッと手を引いて、抱きしめてくれる。

それだけで、震えていた手は落ち着きを取り戻し、彼の背中に手を回す。

KC「…お疲れ様。」
『…うん。』
KC「…怖かったね…よく頑張ったね。」
『…けんちゃ…』
KC「…ありがとう、歌ってくれて。」

耳元で、口付けるように、優しく、優しく伝えてくれる言葉たちに。

全部、全部分かってくれていたのだと…そう実感する。



求められていないのではないか、と怖かった。

時折、自分だけが女性であることに孤独も感じていた。

そして、そのことを良く思っていない人からの視線が、悲しかった。

自分が悪いと、自分自身を責めて、責めて。

訳もなく、1人ぼっちで泣いた夜もあった。




それでも、ここまで来られたのは。




『…けんちゃん…ありがと…』



傍に、彼が居てくれたからだと思う。


KC「…何もしてないよ？」
『…ううん。傍に居てくれた…守ってくれてた…』


傍で、守り続けてくれたからだと思う。

『…けんちゃん、私…幸せだよ…』
KC「…うん。」
『…こんなにたくさんの人の前で歌えて…本当に幸せ…』
KC「…A、すっごくカッコよかった。」


頭を、頬を…大きな、温かい手が撫でてくれる。


『…何よりも、けんちゃんが…傍で、見ててくれたことが幸せだよ…』
KC「…ちゃんと、届いたよ。」


涙しながら見上げると、にっこりと優しく微笑んでくれる。


KC「…A…歌ってくれて、ありがとう。」


彼の、この表情が嬉しくて、嬉しくて。

あぁ…昔から、いつだって、これを求めて歌い続けていたんだなぁ、と実感する。





スタッフさんがバタバタと辺りを行き交う中。

時間が止まったかのようにしばらくの間、ケンチさんに抱きしめられながら、篤志さんがくれた幸せな時間を噛み締めていた。

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