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リキヤさんの言葉を背に、バンドさんの楽屋に駆け出すと。
「…カミケンは来ると思った。」
ニッコリ笑ったユウキくんに、奥へと促される。
「…泣き疲れたみたいで、寝てる。手首の方は…まぁ、本人も大丈夫だって言うなら…医者のオッケーは貰えてる。」
歩きながらそんな話を聞いて、楽屋の奥の、衝立の向こう側へと1人で入ると、艶々の黒髪と、大きなマスクで隠された小さな顔が見える。
「…俺ら出てるから。ゆっくりしてって。」
肩をポンっと叩かれて、ユウキくんは他のバンドメンバーさんを引き連れて、楽屋から出て行った。
広い楽屋の、衝立で仕切られた狭い空間に、Aさんと2人きりになる。
Aさんの眠るソファの前に、胡座をかいて座り込むと、細い腕に、赤みが残っているのが、ハッキリと分かる。
少しでも、その赤さが、その痛みがなくなって欲しい。
そんな風に願いを込めながら、その手首に唇を寄せる。
健太「…好きだよ。Aさんがそばに居てくれたら、それだけで頑張れる。」
そう告げたとき、ピクリとその手が動いた気がしたけれど。
健太「…Aさんが、寂しい思いなんてしないように、毎日同じ家に帰って、毎日愛してるって伝えるよ。」
考え得る限りの愛の言葉を、眠る彼女に伝え続ける。
健太「…もしも、世界中の人がAさんを悪く言ったり、敵だって…そう言っても…けんたは、ずっとずっと味方でいるよ。」
どんなに愛の言葉を伝えても。
健太「…だから、俺を選んでよ…」
その手に縋るように口付けても。
健太「…Aさん…?」
眠り姫を目覚めさせるのは、運命の王子様のキスだって、そう思っていたのに。
健太「…また、来るね…」
Aさんは目を開くことはなくて、俺はハラリと溢れた涙を拭いながら、この部屋を後にした。
『…け、んた…ごめんね…』
その後、Aさんが呟いた言葉も。
静かに、涙をこぼし続けたことも。
けんたは何も知らないまま。
けんたも、扉の外で、しゃがみ込んで。
頭を抱えて、静かに泣いていたことも。
Aさんは何も知らないまま。
Aさんにとって、最後のステージが幕を開けた。
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ゆあ - 切ないです、、 (2019年6月18日 0時) (レス) id: 0eaf3d3c12 (このIDを非表示/違反報告)
にゃんちゅう(プロフ) - ゆあさん» めちゃくちゃお久しぶりの更新になってしまってすみません!ちょっとずつ進めてますので、またどうぞいらしてください♪ (2019年6月10日 23時) (レス) id: 8820865f3c (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ - めちゃくちゃ久しぶりです! (2019年6月10日 0時) (レス) id: 0eaf3d3c12 (このIDを非表示/違反報告)
にゃんちゅう(プロフ) - ゆあさん» ちょこっとずつの更新ではありますが…どうぞお楽しみください☆ (2019年5月15日 22時) (レス) id: 8820865f3c (このIDを非表示/違反報告)
にゃんちゅう(プロフ) - ゆずさん» リキヤさんにはやっぱり健太さんを締めていただかないと…!そして、突然のチャラいっちゃんに変貌ですみません(笑)いっちゃんに荒らしてもらいますよ〜! (2019年5月15日 22時) (レス) id: 8820865f3c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:にゃんちゅう | 作成日時:2019年2月9日 1時