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少しだけ泣いた日 ページ30

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おはよう

今日も撮影頑張ってる

マースが大福に会いたがってる

俺もAに会いたい

愛してるよ


ある日を境に、樹からのLINEが増えた。

それは絵文字もなく短文で、何気ないものだったけれど。

それが一瞬の通知のボックスの中でも、トークの一覧でも読みきれる長さの文章だと気付いて。

一日の終わりに、樹らしくない愛の言葉が届くことも、私に力を与えてくれる。


玲於「破っちゃえばいいじゃん。そんな指示なんて。」

『…色々事情があるから、そうはいかないの。」

玲於「…その事情とかおかしな指示ってさ、お前がボロボロになってまで、守んなきゃいけないもんなの?」

『…私も一端の社員だからね。上からの指示は絶対、でしょ?』


玲於が心配してくれていることは分かっている。

おかしいことだって、理不尽だって、自分でも感じてる。


けれど、

ずっと樹と一緒にいたいから。


きっと、樹は私を信じて待っていてくれて、あんなにたくさんのメッセージを届けてくれていると思ったら、ここで折れるわけにはいかないから。


夏喜「…なんか、すみません…」

『ううん!なっちゃんも…変なこと付き合わせてごめんね?』

夏喜「いや、付き合わせてるのはこっちの方なんで…すいません…」


グループは運命共同体と言うけれど。
自分に刃を向けさせてまで、守るべきものなのか考えてしまう。


夏喜「…いっちゃん、大丈夫ですか?」

『…うーん…毎日、いっぱい連絡くれてる。既読はつけてないけど…』

夏喜「…いつまで続くんでしょうね、こんな…」


困ったように笑ったなっちゃんに、そっと寄り添って、腕のあたりの服をキュッと掴む。

意図を汲み取ったなっちゃんが、首を傾け、鼻が触れそうなほど顔が近づく。


『…なっちゃんの後ろの方に、いる…』


そうやって確認して。


夏喜「…ちょっとだけ、ごめんなさい。樹もごめん。」


そうやって謝りながら。

遠慮がちに、優しく、抱きしめられる。


『…ごめん…ごめんね…』


なっちゃんの胸に頭を預けて、背中に回した腕で、ぎゅっとしがみつく。


ドラマでほんの一時の恋人役を演じたなっちゃんと。


たまたま同じマンションだったなっちゃんと。


指示されるまま、恋人のフリを続ける帰り道で、少しだけ涙が溢れた。

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作者名:にゃんちゅう | 作成日時:2021年5月29日 1時

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