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ITOKANからの帰り道で、ナオミから貰った言葉を思い出しながら、1人温かい気持ちになって微笑んでいると、山王街では珍しい、綺麗なスーツを着た、若い男が歩いているのを見かけた。
その姿や、チラリと見えた横顔には見覚えがあり、思わず声をかけていた。
『…ノボル…?』
スーツの男は、足を止めたものの、振り返ることはなかった。
『…ノボル…だよね…?』
再度声をかけるが、反応はなく、それならせめて表情を伺おうと駆け寄るが、大きな手のひらで制止されてしまった。
『え…何で、ここに…』
「A。」
名前を呼ばれ、この男がノボルであることが分かると、混乱していた頭の中も少しずつ整理されていく。
『どうしたの、こんな…スーツなんか着て…』
「A、今日俺に会ったことは、忘れてくれ。」
『…ねぇ、ノボル。顔見せてよ…』
ノボルはいつだって、Aには甘かった。
「またノボルかよ!」
「Aが調子こくから甘やかすなって!」
「や…可愛くおねだりされると…つい、ね。」
「…てめぇもノボルに色仕掛けしてんじゃねえよ…」
『だって!コブラに言うと、絶対ダメって、怒るから…』
強請るように腕に縋り、甘えた声で呼びかければ、いつだって優しく応じてくれていたのに。
「…じゃあな。」
少し震えた手で、私の手を解くと、そのまま顔も見ずに立ち去ってしまった。
少し震えながら、強請った声は、ノボルには届かなかった。
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作者名:にゃんちゅう | 作成日時:2016年10月19日 7時