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Aはよく分からない顔をしながら慌てる白石を見つめていた。この現代においては特に先程の“良いお嫁さんになる”と言う発言は場合によると嫌がる人もいるだろうが、彼女としては特別嫌な感じがしたわけでは無かったためそこまで気にしていない。
自身が子供や年下に慕われやすく好かれやすい自覚はあること、仮に将来結婚して子供が出来たなら、そう言う話ならば白石の発言も仕方がないのかもしれない。しかし自身が誰かと愛を誓い結婚する、と言うことを彼女は上手く考えられなかった。
「別に怒ってないし気にしてない」
「ほ、ほんまに……？」
「さっきの発言で怒ってたら今頃ここにいないし、この先白石と話すことも無かったよ」
どこかほっとしたように笑みを浮かべた白石をAは一瞥する。
「……へんなの」
そう呟く彼女に視線を向ける白石。普段より穏やかな表情に今の言葉は少しちぐはぐに思えた。なんとなくソレに含まれる意味を理解した白石は薄く笑みを浮かべるとAは鬱陶しいとでも言いたげに顔を逸らす。
「ヘンやろか？」
「…うん、へん。そもそも体育の時なんでついてきたのかすら分かんない、自分で言うのもアレだけど愛想ないし、去年も…あんなだったし……」
口に出すのも憚られる“あの事件”を気にしている彼女は髪を指先で弄びながら視線だけを白石に寄越した。転校当初から感じてはいたがやはりこちらへ来る前に、どんな事かはわからないが彼女にとって忘れられないような酷い出来事があったのかもしれない。
何故ついて行ったのかと聞かれると「テニスラケットを持っていたから」と、白石は確かに彼女が転校してきた時から思うところがあったが理由としてはただそれだけの事だった。
自分に余裕が無ければ人に優しく出来ないとはよく聞くが、今のAを見るとまさにその通りだと白石は考える。こちらへ来て1年経つが、大分丸くなったように思う。
「俺、テニスしてる時のAの顔が忘れられへんねん」
「私そんな変な顔してた？」
「ちゃうちゃう！変な顔やなくて……あれはほんまに心の底からテニスを楽しんでる顔や。子供みたいやな、年相応やなって」
———あの顔、かわええと思うしなぁ
そんな言葉を飲み込んでふとAの顔を見た白石はほんの少しだけ狼狽えてしまう。彼女が今にも泣き出しそうな、ひどく悲しい顔をしていたからだ。
「私、何があってもテニスが好きなんだ」
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作者名：きりふき | 作成日時：2022年2月22日 2時
