「あかんくない」【テニプリ】 (ページ4)

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白石とAの間になんとも言えない空気が漂う。突然話しかけたのはまずかったか、と真顔で自身を見つめる彼女を見て白石は運動後とは別の冷や汗を流した。Aは白石をしばらく見つめたのち、ラケットを脇に抱え白石に近づいていく。

「白石、テニス部だったよね」

「せやで、これでも部長やで」

「じゃあちょっと付き合って」

白石に背を向けて歩き出すA。彼女を追いかけ向かった先は自身もよく使うテニスコートだった。しかし白石は当たり前だが今テニスラケットを持っていない。

「ラケット、予備とかないの？」

「え、あぁ…あると思うで。けど……」

「…なに」

「今は授業中やん？せやからあかんのちゃうかな〜って思うねんな…？」

そんな白石の言葉を聞きながらもAは歩いて行ってしまい、戻ってくるとどこからかラケットを拝借してきたらしい。それを白石に渡し、自身もコートへ戻るとガットをいじりながら視線を向ける。

少し悪い笑みを浮かべ、じっと白石のことを見つめている。思わず息を呑む彼にAは口を開いた。

「“あかんくない”よ。それに気になったからついてきたんじゃないの？ねぇ、白石？」

「うっ、まぁ…せやな……」

「10分、軽く打ち合いするだけで良いから」

お願い、ともう一押しする。しばらくの沈黙の後、先に折れたのは白石だった。ラケットを構え、10分したら戻ることを条件にラリーが始まる。

———あんな顔も出来るんやな

ボールを打ち返しつつもAの表情を盗み見る白石は、どこかホッとした気持ちになっていた。転校当初から毎日つまらなさそうな顔をしていた彼女が初めて見せたその表情は、心の底からテニスを楽しんでいるようで口元は緩く弧を描いている。

グリップの握る感覚、ボールを打つ時の爽快な音、東京からこっちにきてから一度も出来て居なかった大好きなテニス。終わるまでの時間が短く感じるのは仕方がなかった。

「もう10分か……」

残念そうに呟いたAに、白石は少し考える素振りを見せた。

「Aがええなら、やけど…今日テニス部見に来ぉへん？」

「……男子の？」

「おん、自分運動部は入っとらんやろ？せやからマネージャーせぇへんかなって、そしたらいつでもテニス出来るやん」

Aの表情が無くなる。なにか不味いことを言ったかと焦る白石だが、Aは背中を向けたった一言「考えとく」とだけ言って体育館の方へ戻って行ってしまった。