26 / 最終回 ページ27
「ねぇ白石」
「うん？」
「明日デート行こう」
バインダーから顔を上げず選手たちのデータを書き込みながら、息をするかのように呟いた彼女に白石は顔を向ける。返事をする前に、Aは顔を上げテニスコートへ目を向けた。
謙也、財前ペアと金色、一氏ペアが練習を行なっている。その様子を見る彼女の目は輝いていた。
「どうする？都合悪いなら良いんだけど」
「行きます」
「敬語……」
ふっと笑みを浮かべ、今度こそ白石に視線を向けたA。
「白石、中々誘ってくれないから」
「……みんなにも怒られたばっかやねんなぁ…彼氏らしいことしてやれってな？」
「…そうなの？」
「おん。せやから…次は、俺から誘うから」
ほんの少しだけ驚いたようなAは、すぐに頷いて「楽しみにしてる」と言い白石の横にぴったり引っ付くと裾を引いて耳を貸せと言った。側から見ればコソコソ話をしているように見えるだろう。
不意に、バインダーが2人の顔を隠す。
「！ は、っA……」
「口は、白石からしてよね」
頬に当たった柔らかい感覚に思考が停止する。悪戯が成功した子供のように、楽しそうにするAはすぐ白石から離れてまたテニスコートへと視線を戻した。その横顔はほんのりと色を纏い、彼女もまた照れているらしいのを白石は感じ取る。
「……強気なのは“あかん”かったりする…？」
不安そうな瞳を向けられ、速攻で首を横に振る。
「あかんくないで、Aのは嫌やないしむしろ、」
「っ、たまに爆弾落とすのやめてくれる？」
「え？っいて」
背中を一度叩かれ、テニスコートへと押し出される白石は一瞬だけ見えたAの表情に目を見開く。すぐにバインダーで隠されてしまったし、小走りでその場を去ってしまったため長くは見れなかったがそれでも釣られてしまうには十分だった。
——「目の前でイチャつくんやめてもらえます？？」
——「せやぞぉ！！」
——「蔵りんも、隅に置けへんなぁ♡」
——「ちょ、ちょ、A戻ってくる前に練習戻ろ！な！？」
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作者名：きりふき | 作成日時：2022年2月22日 2時
