24 ページ25
Aが学校に復帰したのは雨に濡れた日から2日経ってからだ。病み上がりで朝練には顔を出さなかったが、白石と謙也が教室に行くとすでに自身の席で何か読んでいる姿があった。
「Aー！おはようさん、もう出てええんか？」
「おはよ、もう治ったよ。放課後は部活行くから」
「おー！良かったわ。で、何読んどったん？」
謙也がAの手元を覗き込むと何故か動きを止めてしまう。気になった白石も謙也の後ろからそっと覗き込むと、Aの手には学校案内のパンフレットが。しかも全て東京のものだ。
彼らの様子にAは何事も無かったかのように表情を変えないままそれらを茶封筒にしまい、また視線をを上げる。
「私が頼んでお父さんに送ってもらったものだよ、まだ進路決まってないしね」
大阪に残るのも東京に戻るのも特に決められていないし、好きにしていいと両親に言われている彼女は色々と見てから決めることにした。パンフレットは中学3年になり進路の話が出てくるようになってから、彼女の両親が一緒になって良いところを探してくれたものだ。
まだまだ決めあぐねているが、正直なところ東京に戻りたいかと言えばあまりそう思えなかった。なにより祖母の家で店の手伝いをすることが楽しかったから、余計にそう思うのかもしれない。
それに——と白石に視線を向けたAは、目が合うとすぐに逸らす。不意に、予鈴のチャイムが鳴った。
「ちょ、ちょっと、また進路の話しよな！」
「謙也は私の親かなんかなの…？」
また後で、と席へ戻る謙也。それに続く白石の裾を引っ張り止めると、彼は肩を揺らしAの方を振り返った。
「…え……？」
受け取れの意を込めて二つ折りのメモ用紙を押し付けるとそれを受け取り、何か口を開こうとしたが何も言わないまま席に歩いて行く。そんな彼を見送り、Aは頬杖をついて下唇を軽く噛んでいた。
———『昼休みテニスコートで待ってる』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きりふき | 作成日時：2022年2月22日 2時
