19 ページ20
「見てた、って……」
後ろを振り返り、始まっていた次の試合を一瞥したAはそのままの意味だとコートを、正確には氷帝側の選手を指差して言う。アイツらは先輩たちと同罪なんだ——と。
無論、先輩相手にとやかく言って止めて入ることは難しいことをAは理解している。上下関係は厳しく、口答えをすればチクチクと嫌味を言われる事は分かりきっていた。それを踏まえて、彼女たちを“同罪”だとハッキリ言いのけるのには理由があった。
「先輩たちが動けない私を置いて帰った後に、あの子達は“Aを助けたら次は自分になるかも”って言って帰って行った。どうにかして人を呼ぶくらい出来たはずなのに」
———でも終わったことだ、全部
ましてや今は学校すら違う、ただの他人でもう同じ部活の仲間でもない。そうAは割り切っていた。選手としてコートに立てなくなり強い人と戦えなくなってしまったことの根本の原因はAのことが気に入らなかった先輩であり、全てを投げ捨てたくなった原因は彼女たち同級生。
これが、以前氷帝に居たAに起こった出来事である。
「———」
「何その顔、私もうなんとも思ってないよ」
自身よりも辛そうに顔を顰めた白石を、Aは真っ直ぐ見つめる。ほんとうだよ、と目を伏せ口元に弧を描いたその表情にその場に居た誰もが目を奪われた。彼女がこのような表情を浮かべるのは珍しい、幼馴染ですらほとんど見たことがないものだった。
「全部、白石のおかげなんだ。形は違うけど…やっぱりテニスは好きだから、声かけてくれたの嬉しかった」
「A、」
「本当…“おおきに”。これからも頑張るからよろしく」
拳を胸元にぶつけて、やはり恥ずかしいのか駆け足で戻って行ってしまうAを白石はただぼんやりと眺めていた。平静でいられない胸中、じわじわと波が押し寄せるように心臓が高鳴っていく。
「っ、どないしよ……」
「今のはなぁ、惚れてまうよなぁ白石？」
「顔真っ赤ばい」
———ほんまに、今のは心臓に悪いわ……
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きりふき | 作成日時：2022年2月22日 2時
