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「ねぇ白石」
「うん？」
「何これ」
大きく張り出され歓迎会の文字、“本日の主役”と書かれたタスキを無理やりかけられ財前に生暖かい目を向けられた挙句、転校当初のように次々とお笑いを披露されているAの表情はピクリとも動かない。
ジュースもお菓子も美味しく頂いているし、お笑いの方も悪くはないが自分1人のために——と何とも言えない気持ちでそれを見守っていた。
「つ、つまらん？」
「あ、いやそうじゃないよ。……そんな顔しないでってば」
笑いに包まれる部室内の居心地は決して悪いわけではない。たまにはこう言うのも良いかもしれない、とすら思う。
「お、ついに出番やな小春！」
「ほな行くでぇ！目離さんとってな♡」
Aに向かって可愛らしく手を振る金色と、気合バッチリな一氏。彼らの出番を待っていた人も多く歓声が湧き上がった。2人のネタはよく考えられており、笑いを誘うタイミングや場作りも完璧に近いものとなっている。Aは笑い、というより感嘆の声を漏らしていた。
一通りの出し物を堪能したらあとは自由に話し込んだりするくらいで、あとはAが渡邊からジャージを受け取り正式に入部したことになる。
後片付けはしっかり手伝い、彼女が他の人より先に部室を出た頃には外は暗くなっていた。一瞬で時間が過ぎたことを実感しながら帰路につこうと一歩踏み出すと、慌てた様子の白石が部室から顔を出した。
「ちょ、ちょ！自分なにしとるん？」
「…？帰ろうとしてるだけだけど……まだ何かあった？」
「ちゃうちゃう！こんな暗い中1人で、危ないやろ。ちょお待っとき」
中へ引っ込んで行ったかと思えば、すぐに荷物を持って出てきた白石。一緒に歩き出すとしばらくは無言の時間が続いた。嫌な雰囲気では無かったため、Aも特に喋ることはなかったがふと視線を白石へ向ける。
目線が交わると、先に口を開いたのはAだった。
「部活、誘ってくれてありがと。これから楽しくなりそう」
「…そう、思ってくれとるんやったら良かったわ」
どこか呆けた顔をされ思わず眉間にシワを寄せたAだったが、すぐに顔を逸らしてしまった白石には見えていないようだった。
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作者名：きりふき | 作成日時：2022年2月22日 2時
