とけて、おちて【テニプリ】 (ページ9)

今日:18 hit、昨日:16 hit、合計:27,470 hit

8 ページ9

1日目人物、2日目背景、そう聞いていたが部長がどちらとも描くのなら人物と背景の日を逆にしても良いと言う。Aは風景画は好きだが人物画は特別好きでもなく得意でもなかった。好きな方を後にしようと1日目に人物画を終える。

2日目、風景を描くべく校舎外へ向かう。練習試合のことを聞きあのような言い方をされれば見に行かないわけにはいかなかったため、テニスコートに近いところに場所を決め一度腰を下ろした。

風景だけなら筆が早い彼女は黙々と腕を動かし続け、水彩絵具で色を乗せるまではすぐだった。水彩のあたたかみのある色が好きで、画用紙の上でモノクロの冷たい風景が色付いていく瞬間をAはなによりも好んでいる。

無事に一枚完成しAが気が付くときにはかなり時間が経っていた、もう練習試合は始まっている。全身から血の気が引いていくのを感じながらも道具を片付けて早足でテニスコートへ向かった。

「あ、部長」

「Aちゃんだ！見て、丸井くんが今プレイしてるんだけど」

「スケブ、丸井くんしか居なくない？」

「私が描いたのじゃなくて本物見なよ……」

それもそうだとAは部長のスケッチブックからテニスコートへと視線を向けた。ルールとかはよく分からないが、立海の男子テニス部が強いことだけは分かっているため多分すごいのだろう…と、瞳を輝かせて鉛筆を走らせる部長を横目に考える。

「ねぇ、テニス部の部長はもう試合した？」

「え？いやまだだよ、なぁにAちゃんって幸村くんみたいな人が好みだっけ？」

「ち、ちがうよ！ただ少し気になって、強いんでしょウチのテニス部」

詳しくないから、なんてはぐらかして少しほっとした。終わっていたら申し訳なさで落ち込んでしまいそうだったからだ。試合を最後まで見守ると、どうやら部長お気に入りの丸井が勝利を収めたらしいのがまた取れる。

次の試合はすぐに始まろうとしていた。ついに今度は幸村が試合をするみたいでラケットを手にコートへ入っていくのが見える。Aは息を呑んでそっと人物用のスケッチブックを手に取りページを開いた。

———描きたい、普段見れないあの真剣な表情を、真っ直ぐな瞳を

サーブを放つ音が辺りにこだました。