とけて、おちて【テニプリ】 (ページ27)

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3月5日の土曜日。卒業式まで残り少ない日数。Aはベッドの上で頻繁に寝返りを打っては携帯を見て、また寝返りを打ち唸り声をあげた。そんな飼い主のことをなんだなんだ？と不思議そうに眺める愛犬。

Aは迷っていた。昨日の終礼後、柳から「5日は精市の誕生日だ」と言われて思わず聞き返してしまったわけだが、前日に言われて何を用意すれば良いのか、とか何かメッセージを送ろうか、とか。とにかく家事を一通りこなしてから午前中の貴重な残り時間をそんな悩みで潰してしまったのである。

ふと、携帯の通知音に顔を上げ確認するとそこには柳からのメッセージが入っていた。

『何かメッセージを送ることが出来たか？』

『全然、何送れば良いかわかんない。今休憩中？』

『これから昼ご飯だ、送るなら今が良いと思うぞ』
『精市なら、Aに貰えるならどんなメッセージも嬉しいだろうからな』

体を起こし、メッセージのこととプレゼントのことを考える。買いに行くにも悩んでしまいそうだった。何より何がほしいのか分からないし、変に買っても迷惑かもしれない。

不意にいつかの昼休みを思い出す。自身が作った卵焼きを美味しそうに、幸せそうに頬張る幸村。慌てて柳のトーク画面へ戻り、部活が終わる時間を教えてほしいことを送る。そのまま幸村のトーク画面へ行きメッセージを送るとAは立ち上がる。

『パウンドケーキは好き？』

『うん？突然だね。好きだよ』

『じゃあバタークッキーは？』

『それも好き』

小さくガッツポーズをしたAは、時計を見てから慌てて出掛ける準備をしてスーパーへ駆け足で向かう。お菓子作りは時間がかかる、それもプレゼント用に作るとなると余計に手間暇かけ腕によりをかけて作らなければいけない。

『部活帰り、あの別れ道で待っててほしい』

スーパーに着くなり幸村にそう送ったAは籠を持って必要な材料を放り込んでいく。

「よし……やるぞ、久しぶりのお菓子作り」