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Aは「逃がさないよ」と言っていた幸村を思い出していた。まさか、と思っていたが今までの言動に加え目の前の彼の表情や言葉から、本当に逃すつもりはなくこちらを落としに来ていたのだとAは理解する。そもそも彼に目を付けられた時点で、もう捕まってしまうことは決まっていたのかもしれない、と。


きゅうっと締め付けられる感覚を覚えながらも、Aは幸村の手から自身の両手を引き抜く。



「っ、はやく、帰らないと…ごはんも作らなきゃだし……」

「…あぁ、そうだな。帰ろうか」



何事もなく歩き出した幸村の後を追うAは、空いてしまった手元が寂しく感じていた。しかし自分から離して抜け出してしまった手前繋ぎ直すのも難しく、そもそもお付き合いもしていないのだから手を繋ぐのもどうかと思うのだ。


悶々としているAに幸村は目線だけ向けると、小さく微笑む。Aは無意識のうちにどこか寂しく残念そうな顔をしていた。昼間もそうだったが、真田が保健室から戻ってくる直前に離れるときも同じような顔をしていたのを幸村だけが知っている。


愛しさを噛み締めている幸村をよそにAは別れ道で立ち止まった。



「私、こっちだから」



またね、と眉を下げ曖昧な笑みを浮かべると歩いて行ってしまう。そんな彼女に幸村は早足で近づくと自身の方へ引き寄せ腕の中に収めた。訳もわからないAは抜け出そうとするが、それを幸村は許さない。



「ゆ、きむらくん…?」

「はぁ〜〜……やっぱり言わせてほしいんだけど…Aさんが好き、俺と付き合ってほしい」

「あ、ぅ…うぅぅ………」



よくわからない声を上げるAの頭を撫でると、驚くほど静かになってしまう。しばらく待つとゆっくりと顔を上げたが、その顔は真っ赤に染まっており目には涙が溜まっていた。



「ふふ、良いよ無理しなくて」

「ご、ごめっ……」



———あぁ、かわいい。これ以上のことしたらこの子はどうなってしまうんだろうな



「でも君の言葉で聞きたいんだ、だから……そうだな、卒業式にしようか。卒業式の日にまた聞かせてくれるかな?」



卒業式の日まではまだ時間がある。とは言えこれからの時期、3年は忙しくなるためそこまで長くは感じないだろう。頷いたAを確認した幸村は腕を緩める。



「ありがとうAさん。それじゃあ…また明日、気をつけて」




帰りづらくなる前に、と幸村は彼女を一目見て踵を返していった。

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かな(プロフ) - とても面白かったです!!ありがとうございます‼︎ (2023年3月2日 11時) (レス) id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりふき | 作成日時:2022年1月28日 12時

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