とけて、おちて【テニプリ】 (ページ25)

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———まぁ、結局こうなるんだよね

しっかり握られた右手を見てから幸村の方を盗み見たAは思わずため息をついてしまう。何を話すわけでもなく、ただ無言でゆっくり歩くだけでも妙な安心感があった。そっと握り返せば嬉しそうな笑い声が隣から聞こえてきて恥ずかしくなってくる。

そんな彼女の様子を微笑ましく思っていた幸村は不意に足を止めたAに振り返った。少し俯いていて幸村からAの表情はよく見えない。

「幸村くんは……私のどこに惚れたの？」

普段のAならこんな話をする場合最初から目が合うことはない、それは幸村がよく理解していた。少し俯いて、顔を上げたかと思えばしばらく視線が泳ぎ、そして目が合うがそれもそんなに長くは続かない。だから幸村は目の前で自身を真っ直ぐ見つめるAに息を呑んだ。

逸らされることのない視線。幸村が答えるのをじっと待っているAは、ただ黙って幸村の目を見るだけだった。

「……2月、だったかな。病院で…話はしなかったが会っただろう？」

「ぇ……」

まさかその時の話からされると思ってなどいなかったAは驚いたように目を見開く。

「あの時、泣いている君を見た時から気になってはいたんだ。ちゃんと好きになったのは俺が学校も部活も復帰した後、委員会で一緒になってて……」

「……うん」

ひどく優しい顔をした幸村は、繋いでいた手をそのままにしっかりAへ向き直った。

「どこに惚れたのかって話だけど……俺はAさんの周りをよく見ているとことか、細かな気遣いが出来るところとか好きだよ。あと実は凄く頑張り屋なところとか、」

「ちょ、ちょっとまって！」

「待たない、聞きたがっていたのは君だろう？」

「そ、そう、だけど……もうわかったから………」

いつものAさんに戻ったな——と段々と小さな声になっていく彼女に愛しさを覚えた幸村は、彼女の両手を自身の手で包み込んで笑みを浮かべる。もう目を合わせてはくれないけど、それでも良かった。

「やっぱり、好きだなぁ……」

心の底からそう呟いた彼の表情は緩みきっており、それを感じ取ったAはゆっくりと視線を幸村へ戻していく。熱のこもった瞳とぎゅっと握られた手からも伝わる体温。

とけてしまいそう、咄嗟にそんな言葉が頭に浮かんだ。