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鼻を啜り、まだ潤んだままの瞳、どこか愛らしさを感じる顔に不釣り合いな左頬の湿布。幸村は痛々しい患部を湿布の上から軽く撫でる。ヒリヒリするのだろう、Aはほんの一瞬眉を顰めていた。
事の成り行きとここに呼び出した男子生徒の名前を聞いた2人だったが幸村はしばらくそばにいると校舎裏に残り、真田は報告せねばと去って行った。大事にはしないでほしいとAは頼んだが大丈夫だろうかと不安が募る。真田は厳しいと評判だから、きっとあの男子生徒も粛正されるのだろう。
目の前に立つ幸村をぼんやり眺めながらそんなことを考えていたAだったが、右頬で遊ばれ、続けて両耳を撫でたり親指で耳たぶを押してみたりする幸村に思考を乱され始めた。
「あ、の……」
「ん?」
次第に熱を持ち始めた体と、いつの間にか鼻先数センチの位置まで近付いて来ていた幸村。完全に思考が閉じてしまったAは目線も逸らせずただじっと見つめていた。
「その顔、たまらないな」
そっと耳元へと顔を近づけると、まるで内緒話をするかのような囁き声でAへと語りかける。背中に電気が走ったような感覚に彼女はハッと息を呑み視線を泳がせていた。やけに心臓の音が響いて聞こえるような気がする。
最近自分が変だと、Aはうるさいほど跳ね上がる心臓付近を制服越しにぎゅっと握りしめた。一緒に出掛けたあの日を境に、彼と話すことが、触れられることが、こんなにも嬉しくて満たされるなんて。
———なんで、こんなに落ち着くの?
ゆっくり離れようとする幸村の服を掴むAは彼の顔を見ないまま呟く。
「もうちょっと、だけ……」
「! ふふ、良いよ」
自身よりも大きな体、程良い力で抱きしめられると幸村の心音がAにも伝わっていく。Aほどでなくとも、彼も心拍数が上がっているらしく余裕そうに見えて案外緊張しているのかと考えが浮かぶ。
「…こんなの、期待しちゃうな……今は顔を上げないで貰えると助かる」
「頭押さえつけるのは、どうかと思う…私のことは見て楽しんでるくせに……」
「反応が可愛いくてつい、ね」
幸村の顔を見ようにも力で敵うはずもなく、大人しく胸元に収まって居ると頭を撫でられる。頭上からは楽しそうな声が降って来た。
「まだ、もう少しこうしていようか。キミが安心できるなら」
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かな(プロフ) - とても面白かったです!!ありがとうございます‼︎ (2023年3月2日 11時) (レス) id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりふき | 作成日時:2022年1月28日 12時