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一瞬、理解が追いつかなかった。痛みで熱を持ち始める左頬に手を添えて後退るAに、目の前の男子生徒は我に返ったのか一言謝って逃げるように走り去って行く。思考が回らない中、1人になった校舎裏で彼女はしゃがみ込みぼんやり地面を見つめていた。
見た目を変えてから度々告白をされるようになったA。生徒が多い立海でその半数はよく知らない男子生徒、当たり前だが彼女は全て断っている。言葉を交わしそれで終わり、今回もそうだと思っていた。
しかし今日の男子生徒は様子がおかしかった。いつものように告白を断れば突然捲し立てられ、体に衝撃が走って、殴られたのだと気付くと彼は走り去る。今まで無かった出来事にどう対処したらいいのか分からないため、ひとまず頭の中の整理をしたい彼女はそこから動かない。
考え事をしているAは人が近づいて来ていることすら気が付いていなかった。
「え、Aさん?」
「! ぁ、え……」
近くで花壇の水やりをしていたのだろう、ジョウロを持った幸村が驚いた様子でAを見下ろす。そんな幸村の後ろから同じようにジョウロを手にした真田が顔を覗かせ、Aの姿を見るなり眉を顰めた。
「その頬は…何があった?さっき顔を青くした奴が走り去って行ったが……」
「え、っと…ちょっと……色々あって…あはは」
「笑い事ではないだろう!怪我をしているんだぞ」
「真田、彼女が怯えているじゃないか。俺が話を聞くから湿布をもらって来てくれ」
先程の出来事が尾を引いているのか真田の怒鳴るような声に体を揺らした彼女に気を遣い、幸村は真田の背中を押して保健室へと送り出す。
「結構赤くなっているね、痛い?」
「ちょっと、だけ……」
優しく両頬を包む幸村の手はひんやりとしていて熱を帯びた患部には心地良い。ずっと硬い表情をしていたAはようやく落ち着いたのか、穏やかな顔へと戻って行った。
それと同時に、瞳が潤み大粒の涙が流れていき幸村の手を伝っていく。指先で涙を拭いそのままゆっくりAの体を抱きしめると、彼女もまた背中に手を回した。
「っ、わ、私…こわ、かった……」
「うん、うん。大丈夫だよ、今は沢山泣くと良い。真田も戻ってくるまでまだかかるだろうから」
まさかこんな形で彼女の泣き顔を見るなんて、と腹の底に渦巻く黒いものを感じながら幸村はAの背中を撫でる。
小さな体は真田が戻って来るまで震えたままだった。
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かな(プロフ) - とても面白かったです!!ありがとうございます‼︎ (2023年3月2日 11時) (レス) id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりふき | 作成日時:2022年1月28日 12時