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柳は考えていた。昼休憩後から午後の授業が終わるまで自身の席の右斜め前に座るAの挙動がどうもおかしい、悩み事がある確率は高いが彼女が表立ってそのように悩む姿は同じクラスになってからのこの2年間一度もない、と。
柳とAは大して仲がいいわけではないが、お互い異性としては話しやすい方という感覚はあった。何度か席が隣になったがその時は他愛のない話なんかもしていたから、彼女がどのような人物なのかを柳は把握している。
「A、少しいいだろうか」
「えっ……」
「都合が悪いなら良いのだが」
「い、いや!良いよ大丈夫」
妙にドア付近を気にするAに柳は思考を巡らせた。まるで誰かと会いたくない、会わないようにしているような素振りにやはり昼休憩の時間に何かあったのだろうと容易に想像出来る。
話を続けようとした柳は口を開きかけまた閉じる。Aの動きが止まってしまったからだ。視線の先を追うように後ろを振り向いたとき目に入った人物は自身もよく見慣れていた。
幸村が教室へと入ってくるとAは急いで鞄へ持ち帰るものを詰め込み始めた。
「やぁ、蓮二」
「珍しいなこちらの教室に来るのは」
「そうだね…Aさん、ちょっと待って」
「っひ……」
いつの間にか席を立ち鞄を両手で抱きかかえたまま部活へ向かおうとするAは、ひどく驚いた様子をみせる。彼女の頭の中は昼間のことでいっぱいだった。
幸村はAを呼び止めると一枚の紙を手渡す。あのとき勢いで渡してしまった作成途中である委員会のポスターを届けにきた、と言うように周りには見えていただろう。
「完成楽しみにしてるよ。蓮二、行こうか」
「あぁ。A、また明日」
「ば、いばい……」
ぎこちなく手を振ったのち、Aはポスターに貼られていた付箋を剥がし丸めてポケットに突っ込んでから再び自席に腰掛ける。昼間同様に鼓動が早く脈打つのを感じていた。
『昼の告白、ちゃんと本気だから』と書かれていた付箋の文面を頭の中で復唱する。なぜ私なのか、などと考えていても本人でなければそんなことはわかりっこないとすぐに思考を閉じる。
彼の告白が冗談とか遊びとか、そんな風に考えているわけではない。そもそもAは今まで告白と言う告白などされたこともなく、男子との接点も多くはなかったため慌ててしまうのも仕方のないこと
忙しない心臓をよそに美術室へ向かうべくAは早足で教室を後にした。
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かな(プロフ) - とても面白かったです!!ありがとうございます‼︎ (2023年3月2日 11時) (レス) id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりふき | 作成日時:2022年1月28日 12時