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手を掴み前を歩くAの姿に幸村はほんの少し心を躍らせた。まだ付き合ってないだけ、と女性達から引き離してくれた彼女に期待しない方が無理な話だ。
髪の毛が靡くと赤く染まった耳が見える。どんどん歩くスピードが落ちていき、最終的に立ち止まったAは振り返らなければ手をほどくこともしない。
「Aさん」
「……」
「Aさん、こっち向いて」
少し手を力を込めただけで肩が跳ねる彼女の様子に悪戯心が芽生えたがなんとか堪え、口元の緩みも抑えていると首だけ少し幸村の方を向いたA。髪の隙間から見える瞳は恥ずかしさからか潤んでいる。
Aは流れでやってしまった自身の言動に今更気が付き、冷静さを失っている。片手で口元を覆いこの後どうすれば良いのかだけが頭の中を巡っていた。
「まず、さっきはありがとう。正直すごく困ってたんだ」
「……うん」
「ふふ……かなり怒ってたからもしかしてヤキモチとか焼いてくれたのかなとか考えちゃ…って……」
そう幸村が言葉にした瞬間、先程よりもずっと色濃く染まったAの顔。視線がさまよった後、幸村の方へ戻って来ると静かに頷く。
嫉妬、と言う言葉が浮かぶ。Aはあの時、たしかに嫉妬したのだと幸村は理解しAも自覚していた。あの強引な感じは好まないが幸村に声をかけていた女性は綺麗な人だった、彼があの女性たちと、と考えたら居ても立っても居られなくなりほとんど無意識のうちに動いていたのだ。
「っこれはちょっと、予想外だな……」
釣られるように熱を帯びていく幸村の体。嬉しさ半分と意外さがもう半分、たとえAがそのように思っていたとしてもそんな素直に認めて表に出してくるとは考えていなかった。
———あぁでも、やっと俺に
「! あ……」
「そろそろ行こうか。手、繋いだままでいいかな」
「……お好きにどうぞ」
まさかここまで人を好きになるなんて、と幸村はAの小さな手を握りながら考えていた。女性特有の柔らかさと、家事をしているからか少し荒れた指先に触れると色々な気持ちが溢れて来る。
好き、一緒に居たい、触れていたい、どろどろに甘くとかすように、早く俺ににおちてきて欲しい、でも行きすぎるとまた逃げられそうだからゆっくり、ゆっくりと。
———逃がさないようにしないとな
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かな(プロフ) - とても面白かったです!!ありがとうございます‼︎ (2023年3月2日 11時) (レス) id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりふき | 作成日時:2022年1月28日 12時