傾国。【鬼滅の刃 : MHA 】 (ページ9)

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ティーカップをソーサーに置く彼女、かちゃり…と、一つ音を立てては、「…ご馳走様」なんて、無愛想ながらにもそう呟くように発するのだ。

彼女から伺われる表情は、本当に無表情だ。少し強ばって居る様にも見えるが、とにかく無表情である。

そんな表情を見る度、俺は不安だった。

普段から周りに綺麗な笑顔を振り撒く淑女、と言った印象が強いが、俺の前ではその面影すらもない。

故に、あまり彼女からの印象が好いものではないのかも知れない、などと考えて仕舞う。

そんな状況下でも、俺はパソコンのキーボードを打つ手を止めなかった。

カタカタと無機質な音が、静かな空間に流れる。

そんな黙然とした空間を切り裂いたのは、彼女からの切り出しだった。

「………ねえ。唐突だけど、雪絃って…、、。体質上、身体がそれほど強固なものでもないのに、あの戦いで右腕を失って、左眼を失明して、痣者で有りながら、32まで生きたのよね。雪絃って人魚の肉でも食べたの？」

言葉の通りあまりにも唐突だった。

それは俺の"前世の話"だ。

"あの戦い"で多くの仲間を失った。勿論の事、今目の前に居る彼女でさえも。

それを代償に、皆で力を合わせ、断ち切られる事のない絆から、想いから創り上げられた、一つの大きな刃で、否…皆の、"不滅の想い"で、鬼の王・鬼舞辻無惨をこの世から屠り去った。

軽く目を伏せれば蘇る、"彼の日の記憶"。

嗚呼、そう考えれば今はとても幸せだな、そう錯覚して仕舞っているようにも思える程、俺は何処か、甘さを覚えて仕舞ったのかも知れない。

『……誰が八百比丘尼だよ、そんなこと言い出したらお前は傾国毒女だろ。まだ幼いのに、自らの身を鬼に捧げたんでしょ？人ならざる者をも誑かすその顔で何云ってんだか。それに、売り子になれば生活に難も無いだろうね。そんなに俺から離れたいんなら、カナエと一緒に有意義に生活するのに、そういう仕事やってみればどう？…嗚呼、そうだそうだ。1割程度で構わないから、俺にもも貢納お願いね。あくまでも、お前ら姉妹の生活を支えてあげてるのは俺なんだから。』

思い出せば思い出す程、感慨深くなって仕舞うところは、きっと今の俺の悪いところだ。

彼女の質問の意図は解って居た。だが気付かないフリをした上で、態と話題を逸らした。

こういう行いをして仕舞う事が、俺の弱いところなんだろうな。

そう考える以外、俺には術が無かった。