伍 ページ11
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『…………それにさ、お前はまだ幼気な少女なんだから。大人しく目上の人間に頼って縋ってれば良いんだよ。それくらいが可愛いってのに、相変わらずマセてるよねえ。…だけど、お前に何と云われようと、嫌われようと、俺はお前の、いや、お前ら姉妹、しのぶとカナエの味方だよ。…義父って云うけど、仮にも父親な訳だし。』
そんな言葉を最後にして、俺は彼女の表情を伺う。
その表情は、相変わらず俯けられていたが、何処か熱を帯びたように密かに紅潮していたのだ。
嗚呼、しのぶだって歳頃の女の子だもんな。こんなギザなこと言ったらそりゃ照れるか。
そう考えながら、俺は小さく笑った。
俺は彼女の元まで数歩程度近付き、
黒い皮手袋を嵌めたままの手だが、それを彼女の頭の上に置き、壊れ物を扱うようにして、そっと、優しく、包み込むように撫でてみる。
「っ、子ども扱い、しないで…。」
そう顔を紅く染め上げながら、目を逸らしてそんな事を言われても、説得力が皆無だ。
俺は面白可笑しいようにけらりと笑ったが、その場を丸く収める為に、「はいはい。」とだけ、軽く返答しておいた。
『…で。明日、ヒーロ基礎学の授業でレスキュー訓練あるんでしょ？さっさと帰って早めに寝な。明日に響く。』
俺はそう言って、彼女を帰るよう促すようにして、保健室から退かせた。
まだ帰らないのか、とでも言いたげな視線を向けられたが、俺にはまだ仕事が残っている。
『………ケーキでも買って帰ろうかな。』
俺以外に人っ子一人として居ない静かな保健室に、ぽつりと呟かれた言葉が、小さく響いた。
暫くして最後に見た時計の短針は、8の数字を指して居て。
何処と無く感じる、"嫌な予感"をすっかり忘れたまま、今日という日は過ぎ去ろうとしていた。
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作者名：ゆづ。 | 作成日時：2024年1月22日 14時
