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どこにもいかないように宝物を守る子供のようなヒスイさん。書類整理をして(ちなみに内容はこちらに見せないようにしていた)、ひと段落着いたのか胸を探る動きをした彼は、こちらを見た。私が暇を持て余していることを悟ったのか、向かいのテレビをつけてくれる。
流れているのは、今の私にとっての唯一の世の中を知る手立てであるニュース番組。今日の天気予報、国会について、最近のトレンド、新開発のビル、そして、
〈…………続いて、今日午後3時頃、米花町内の銀行にて、男ふたりが強盗に入り、_____〉
「…ッチ、相変わらず物騒だな」
犯罪。銀行強盗、ひったくり、殺人事件、不審者情報、汚職、事故。ここ数日で毎日何かしらの犯罪や事故が起き、東都の治安の悪さが分かってきた。
警察官として、毎日悪いニュースが耳に入ってくることも、それに何も出来ずにいる私にもとても歯がゆい思いをしている。あぁ、だけどもう今の私は警察官では無いのか…。
そもそも数週間以上連絡の取れない(もしかしたら行方不明扱いの)者に、警察としての権利は何も残されていないかもしれない。
「どうした?」
「…いえ」
外部とも何かしら連絡を取らないといけないと思っているのに、それが出来ないのは、この人が原因だ。
ヒスイさんは、彼の仕事に関することが私に知られないように、電話は私の前では出ないし、今だって書類の内容が少しでも私に見えそうになると、手首をかえす。テレビで何かを見れるようになったのも、つい2日前のことだ。
意識が戻ってから会った人間も、ヒスイさんとベルさん、お医者様だけだ。徹底的に外部と私の間に壁をつくられている。
ただそれに文句を言おうとすると、ヒスイさんは何も言わずにジッと私を見つめてくる。親が仕事に行くのを拒むように、迷子で寂しい子供のように。
何も言わないでくれ、と。
ただ、外部との接触を阻むわりに、ベルさんもまた、時折悲しそうに綺麗な顔を歪ませるのだ。
セレネ、セレネ、__ごめんなさいね。
その綺麗な顔が、
_____無理をしないで、お願い_____
記憶の中の誰かに、重なるのだ。
思考の海へと沈む私は、背後の扉が開かれたのに、気付かなかった。
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にゃーちゃん - 続編おめでとうございます!夢主ちゃんのこれからがめちゃくちゃ気になります…!!!更新楽しみにしてます! (1月25日 22時) (レス) @page2 id: 75afd42a71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヒツギ | 作成日時:2024年1月24日 0時