【続々】どうか貴方達に、幸せの花束を。 (ページ4)

今日:61 hit、昨日:240 hit、合計:4,779 hit

･ページ4

随分と長い眠りから目覚めて、数日。あれから色々とあった。

まず名前。

やけにあっさりと口から出た『ヒスイ』は、銀髪の男の人の名前だった。他の人からの呼び名はジンなのに、私にはヒスイと呼んで欲しい、と。彼とどんな関係だったのか、愛称で呼ぶ仲だったのかはまだ教えて貰えていない。

金髪の美女も、『ベル』と名乗ってくれた。本来はベルモット、らしい。こちらも私には愛称で呼ぶように、と。

そして私は、桜蓮A。これが自分の名前なのだろう、とぼんやりと確信が持てないのは、記憶に私の名前だと言えるものが無いからだ。合っているのか、間違っているのかも分からない。

ひとまず人の名前を教えてもらったところで、意識が戻った私を確認する、とお医者様に診てもらった。日常生活における基本的情報は欠如していないらしく、人の名前や自分の名前、これまでの記憶の欠如と怪我以外、問題はなかった。

ただ、1つ分かったことがある。確認事項として言われた、『東都』という言葉。日本の首都であるということは分かるのだが、どうにも違和感があった。これじゃない、そんな気がした。気の所為かもしれないけど。

そんなこんなで無理しなければOK、と言われた私は、ヒスイさんに囲われ、ベルさんに世話を焼かれる生活を送っていた。

そう、それが問題なのである。

まだ全快していない私を世話してくれるベルさん。お話し相手になってくれて、包帯を巻き直してくれたり、髪を梳かしたり、お茶をしたり。あんな美女に世話されるなんて罪悪感と背徳感で死にそうではあるが、そこはいい。仕方ないことだから。

だがヒスイさん。貴方はダメだ。

彼は、まるで恋人のように私に接してくる。ベルさんのことが気に入らないのか、2人でいるといつも牽制するように私を抱きかかえる。そう、抱きかかえるのだ。それも、1度や2度ではない。

部屋から出る時、どこかに移動する時、ベルさんと一緒にいる時。いつもいつも私を抱きかかえる。恥ずかしいことこの上ない。意識が戻った日に少しふらついていたからか、それともその後久しぶりに足を動かしたせいでしばらく動けなかったせいか。どっちもか。

そもそも心配だから、と部屋からもあまり出してもらえない。出ようとしたらとても良い声で口説いてくるのだ。時には悲しそうに、時にはからかうように。

まるでどこぞの王子のようでありながら、宝物を離さんとする子供のような彼が、本当に不思議で、でも気になってしまう。