捕獲 ２ ページ29
肉声にしては何処か違和感のある、くぐもった声が辺りに響いた。
その途端、目の前で揺れていた瞳にようやく冷静さが灯される。と思うと、私の手首を締め付けていた両手が、糸が切れたように力無く下ろされた。
シャ「.....すまん、グルッペン」
グ〈落ち着いたか？〉
シャ「おん」
グ〈なら良い。
A、聞こえるか？〉
シャオロンが酷くしゃくり上げ、綺麗な髪を乱して雫をボロボロと溢し始めると、一度聞けば忘れられない低音が私の名を呼ぶ。
止めどなく彼の頬を伝う雫を一切拭い捨ててしまいたいが、そんな迷惑極まりない行為をするわけにはいかず、伸ばした掌をそっと下ろした。
『.....ああ。聞こえてはいるが、一体何処にいるんだ？トランシーバーも人影も見当たらないが....』
グ〈....お前はまだ知らないか。
インカムっていってな、トランシーバーの小型版みたいなもんだ〉
『トランシーバーの小型版？そんな便利な物あったか？』
グ〈ロボロが開発してくれた〉
『ほう、ロボロが.....』
インカム.....どうりで声に違和感があったわけだ。
なんて１人でなるほどなっとくカタツムリしていると、先程再会を果たしたホビットの名をグルッペンが口にした。
......たしか、彼は前世でも機械に強かったはずだ。私がライターだった頃に愛用していたトランシーバーも、ロボロお手製の物だった。
広大な城内で暮らす仲間とすぐに連絡が取る為、当時存在していなかった無線の通話機を共に開発したのは良い思い出だ。
と、現実から逃げるように遠き過去に足を浸らせていた時、きゅっと袖が引っ張られる感覚がした。
『....シャオロン？』
シャ「ごめん、手ぇ痛かったよな....？おれ、まだよう頭が回らんねん.....１回涙出たら止まらんくなるし....ゆるしてや.....」
『あ、ああ。大丈夫だ』
シャ「.....A、お願いやから、ほんまに一生のお願いやから、俺等の所に戻ってきてくれ.....」
幼子のように私の手を優しく握るシャオロンが、か細い声でそう漏らす。
弱々しく眉を下げて、涙で溶けた琥珀の瞳に、私を捕らえ込んで。
前世の勇ましく血気盛んなシャオロンからは想像も出来ないその姿に、心臓が強く締め付けられたような、ありもしない母性が働いたような、そんな気がした。
それと同時に、大いに感心した。
前世では目も当てられない程であった彼等の"演技力"が、ここまで上達している事に。
その演技力を、本懐を遂げる為とはいえ惜し気もなく捕獲対象に魅せている事に。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1320人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とうみん(プロフ) - あなたの作品は情景描写がとても綺麗で、つい作品の世界観にのめり込んでしまいました。有名な小説家にも文才などありません。何度も何度も書き直してやっと傑作が生まれるのです。偉そうなことを言ってすみません。とてもおもしろかったです。ありがとうございました。 (9月3日 18時) (
レス) @page36 id: a126db2d2e (このIDを非表示/違反報告)
るる - 読んでいてとても面白かったですよありがとうございます (2022年12月25日 16時) (レス) @page36 id: a2a90b5064 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - またいつか、続きを書く気持ちが湧いたならどれだけ時が経っていようとも、遠慮せず作品をまた更新してください。どうか、貴方様の作品を心の底から待っている人がいることを忘れないでください。本当にありがとうございました。コメント2つもしてすいません！ (2022年8月17日 12時) (レス) id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - 打ち切りの言葉にはショックを受けましたが、読んでいるだけの私には分からない作者様だけの事情もあると理解しました。面白く、読みがいのある作品をどうもありがとうございました。 (2022年8月17日 12時) (レス) @page36 id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
Ajisaaaai(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました (2020年12月3日 8時) (レス) id: 4585525dae (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クレア | 作成日時：2019年10月26日 16時
