私は、女王だった

不穏 ページ5

もしそうだとしたら、本当に申し訳ない。
どうせなら、仕事を全て終わらせて、後継者の書類を作ってから殺されたかった。

本当に駄目な女王だな、私は.......

兄「A！引いとる引いとる！」
『あっ』
兄「あー！逃げられてもうたぁ......
　 どうしたん？ぼーっとして」
『い、いや、ちょっとな。
　お兄さんも釣ってみるか？』
兄「いや、やめとくわ。
　 あ、もうこんな時間や！俺仕事あるから行くな！」
『ああ！頑張ってくれ！』

黒眼鏡でグレーのストールという格好まで似ているこの人を、私はあえて「お兄さん」と呼んでいる。
兄さんと呼んでしまったら、「兄さん」と混同してしまうような気がするから。
そうなったら、前世を忘れる事が出来ない。

お兄さんの本名も知らないしな。

『お、結構釣れたな』

フナでいっぱいになった魚籠を片手に、川のせせらぎを聞きながら元来た道を歩く。

畑仕事を再開していたおばさんに軽い挨拶をして空っぽな家に帰ると、早速魚籠からフナを２匹取り出して、流し台に寝かせた。

私を産んでくれた両親は、皮肉にも私が15歳の時に亡くなってしまった。
奇しくも、前世でも15歳の時に父上が亡くなった。こんな偶然、あるんだろうか。

......いやいや、もう前世の事は忘れるはずだろう？いつまでも引きずってたら、彼等に迷惑だ。
.....あれから100年も経っている。もう彼等も、亡くなっていると思うが。

無意識に前世を思い出してしまう自分に苛立ちを感じ、フナのエラに刃を当てた時だった。

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