18. どうして ページ18
あんまり激しく揺らしすぎたせいか、常田さんは「うぅ」と唸り、私の肩から顔を上げた。
(…良かった、意外と早く起きてくれた…)
肩にズシリとのしかかっていた重みから解放される。
それと同時にぶわっと体が熱くなる。
雑踏や虫の声よりも、自分の心臓の音が大きすぎて、煩くて煩くて仕方ない。
常田さんは相変わらずぼんやりしていて、視線を向けられているのを感じたけれど、顔が見れない。
この人が何を思っているのか、分からない…。
気まずい沈黙が、嫌で、嫌で。
「……あの、お水、」
さっきの「お水買ってきます」を口実に一旦その場を離れようとしたその時、
「あっ、居た！おーい！おふたりさん！」
「！」
この声は！
前方から井口さんが歩いてきた。
隣で手を振ってる人は……新井さん、だった。
「なーんで俺らも誘わなかったのよ。
水くせー！2人きりでイチャコラしてたんじゃないのー？」
口を尖らせる井口さん。
“イチャラコラ”という単語にドキリとする。
「あのっ、新井さんも来てくださったんですね」
「うん。さっきまで理の家で遊んでたから。にしても、顔赤いね、Aちゃんも酔ってる？」
「あ、や、今日暑いので！！」
自分でも分かるくらいに挙動不審になってしまっているけど、新井さんは「そっかー」と穏やかに相槌をうっていた。
「さー、大希くんおうちに帰りましょーねー」
「だいぶ酔ってんな、もうすぐフェスも近いってのに…」
井口さんと新井さんに支えられながら、よろよろと常田さんが歩き出す。
それを必死で追いかける私。
3人とは、駅の改札口で別れた。
「Aちゃん、ありがとね！大希が世話になりました！」
「フェスでもよろしくねー」
手を振るおふたりに、ぺこっとお辞儀をした。
もちろん、常田さんにも向かって。
やっと1人になった。
別に1人になりたかったってわけじゃないけど。
電車を待っている間、やはり思い起こすのはさっきの出来事。
肩に感じた、男の人の重み。
ふわりと香るタバコやビールの匂い。
すぐ近くにある綺麗な顔。
耳元で私の名前を呼ぶ、低い声。
それやこれやがありありと頭に浮かんでくる。
肩に寄りかかられたのは…
眠かったから、だと思う。
でも、今まで「Aさん」なんて素っ気なかったのに、「A」なんて急に呼び捨てで呼んだのは、どうして？
…あの時、常田さんは何を思ってたのか。
(……分からない……)
今夜は多分、眠れそうもない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 274人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
惑星ワタシ(プロフ) - こちらこそです！ずっと読んで下さっていたなんて嬉しいです、頑張って更新し続けて良かったです泣 ありがとうございました！ (2020年7月10日 21時) (
レス) id: a8b54cfafa (このIDを非表示/違反報告)
あみ - はじめまして、ずっと読ませてもらってました。ホントに素敵なお話。ありがとうございました。 (2020年7月10日 19時) (レス) id: 7d59dcc18e (このIDを非表示/違反報告)
惑星ワタシ(プロフ) - かのんさん» ありがとうございます！楽しみにして頂けて嬉しいです！気合いが入ります(^^)もうしばしのお付き合いよろしくお願いいたします！ (2020年6月30日 9時) (レス) id: a8b54cfafa (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - 毎回続きが気になる展開のお話です！これからも更新楽しみにしてます！ (2020年6月28日 13時) (レス) id: a040a3f75f (このIDを非表示/違反報告)
惑星ワタシ(プロフ) - あすぴーさん» わー、ありがとうございます！とっても嬉しいです！King Gnu以外のアーティストはですね、敢えて名前は出さないようにして、読者さんに好きに当てはめてもらうみたいな感じでやっております。更新頑張りますので、これからもよろしくお願いします！ (2020年4月9日 21時) (レス) id: a8b54cfafa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：惑星ワタシ | 作成日時：2020年3月6日 17時
