こんな日々は認めない。 (ページ3)

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古書店【鏡】ページ3

．

――夢を、見ていた。

目の前に立つのは、あの美しく、偉大な后。

后の唇が動く。

『鏡よ鏡。この世でだれがいっとうきれい？』

返事なんて知っているだろうに、后は毎日毎日、決まって同じことを訪ねる。

自分が一番でないと安心出来ない人なのだ。――心配しなくても、一番はもちろん。

『后よ、あなただ。この世であなたが、いっとうきれい』

私が、――いや、夢の中の私が言う。私は本来ただの鏡(もの)でしかなくて、もちろん人間の姿ではない。ただの、少し大きめな鏡なのだが。

いつもと変わらない『私』の答えに満足した后は、愛くるしそうに私を撫でる。

『――私が信じられるのは、お前だけだ』

美しい顔に笑みを浮かべて后は言う。そうなのだろう。私が言うのもなんだが、后はあまり良い性格はしていなかった。

きっと敵が多くて、それでも絶対に嘘をつかない私のことは信頼してくれていたのだ。……嬉しかった。こんな日が、ずっと続けば良かったのに。

その次の日は白雪姫の七歳の誕生日で、いつものように同じ問いかけをした后に、

――ああ、私は嘘をつけなかった。

返答に后の顔が歪む。そして表情が怒りに染まり、私に背を向けて荒々しく口を開いた。

『――――！』

．

「要さん？」

私を呼ぶ声と、体を小さく揺さぶられる感覚で目を覚ました。

どうやら私は、自分の営む古書店で店番をしながら眠ってしまっていたらしい。

視界に入るのは小さな少女。最近よく通ってくれている、深瀬有栖という女の子だ。

――実はこの子はリィンで、悠久古書店に所属しているのだが。

有栖は私が出版社員であることを知らない。いつかターニングポイントで会った時は、きっと彼女は驚くだろう。

「――すまない、有栖。今日も来てくれたんだな。……その本を買うのか？」

「えぇ！面白いお話だって、シン……エラお姉ちゃんが言ってたの」

差し出されたのは『白雪姫』の絵本。子供向けの本なので、原作の残酷なラストシーン――后の最期はカットされているものだ。

それにしても、と思わず小さく笑う。夢と現実がリンクするなんて。

「ああ、それは面白い話だ。私の好きなキャラは、少し変わっているがお后さまだな」

そうなの、とアリスは興味深そうに頷く。「帰ったらすぐに読むわ」

「そうしてくれ」

そう言って有栖を見送ると、本棚から同じ白雪姫の絵本を取り出す。

――久しぶりに読んでみようか。

ぺらり、ページを捲った。