こんな結末認めない。【第二夜】 (ページ6)

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大嫌い【アリス】ページ6

――シンデレラちゃんに助けてもらってから、わたしは必死で走っていた。

レットお兄ちゃんに追いつかなくては。まあ、お兄ちゃんは強いからきっと大丈夫だろうけれど。でも、でも、一人で何もしないなんて嫌なんだ。

そんなことを思いながら、夜の霧の中を駆けた。脳裏に、あの顔色の悪い赤ずきんの彼女が思い浮かぶ。――そんなに、原本が欲しいの？

わたしにはよくわからなかった。だってわたしは、『わたしの物語の維持』を望んでいるだけだ。だって、そうじゃないとわたしが嫌だから。自己中でも、それが本心。

だから他人の原本になんて興味ない。今回だって、本当はどうでもよかった。でも、

わたし、あの人嫌いだわ。

そう心の中で呟くと、それは湖に投げ入れた小石のように、波紋を広げて溶けていく。

うん、きっとそうだ。嫌いなんだ……きっと。

だって怖いんだもの。それに、走っている途中だからよくは聞こえなかったけれど、あの人が言った言葉は。

『まさにその通り』。

シンデレラちゃんの考えは、本当にエゴまみれで歪だ。でも、そんなこと、シンデレラちゃんが一番知ってる筈。

『――私って、我儘なの』
シンデレラちゃんのお話を聞いた時、彼女が言っていた言葉を思い出す。

そうよ、我儘よ。我儘で何が悪いわけ？別に彼女は、自分が幸せになることで義母達の代わりに、なんて思ってない。なんの賞賛も求めてない。ただ、彼女が自分に課した罰なのだ。今すぐにでも投げ捨てたい幸せを背負って生きていく。
笑えばいいじゃない、と彼女は言った。そりゃエゴまみれな筈だ。誰の為でもない、自分の為なんだから。

――赤ずきんが寄り道したのは、あくまでおばあさんのため。

ほら、その正しさだ。その正しさがあるから不幸が生まれる。シンデレラちゃんは正しかった。だから彼女は、幸せの裏で不幸を負った。

……なんて、これは全部『おねえさま』の受け売りだけど。

その時、霧を劈くような絶叫が聞こえる。びくりと振り向くと、宙に浮くガラス球と、その中に閉じ込められた赤ずきん。

口元が緩むのも束の間、それはすぐに割れて、赤ずきんがふわりと落下する。

ああ、これはきっと駄目なやつだ。わたしは踵を返し、シンデレラちゃんの元へと急ぐ。――でもそこにはもう、彼女も、そして敵もいなかった。

「……シンデレラちゃん？」

――そこに残されていたのは、変に美しく輝く、脱げたように置き去りにされた彼女のガラスの靴(幸せの象徴)だけ。