止まった世界と【早川綾音】 ページ1
「ねえ、詠史くん。どうして私たちは季節を取り戻さなきゃならないのかな?」
夏班班長、といっても歳はまだまだ無邪気な高校生ほどの少女、綾音がぽつりと呟く。
横に立つ、同じく夏班に所属する青年詠史はそう言われてみれば、と顎に手をやった。
「義務だから」一言で言ってしまえば、それだけ。それで彼女が納得するのか、とここ8年ずっと曇天の空を見上げる。
「だってさ、技術が発達したから不便っちゃ不便だけど、太陽も風もなくても生活はできるでしょう? 少し楽しみを捨てればいいだけの話じゃん」
『季節』が消えてから8年。技術というものは戦争時か危機的状況のときに発達するもので、日本の技術は世界トップクラスからトップへとなっていた。だから、季節がなくても生きていけなくはないのだが──。
これをどう説明したものか、の詠史は腕を組む。そうだ、と手を打ち、
「でも、綾音さんは告白されるなら『イルカが大ジャンプしてる夏のサンセットビーチ』がいいんだろう? なら、季節は取り戻さないと」
悩んだ末に詠史がそう答えを出してみると、「それもそうだね!」と綾音はあっさりと納得。
「それに、なんか不気味だしね。風も吹かない、陽も照らない、草木一本変化しないって」
そう綾音が付け足し、一時の散歩から帰ろうと寮に足を踏み入れる。
すれ違いざま、1人の男とぶつかる。危ないよ──詠史がそう言おうとするのを制し、綾音はいつの間にか手のひらにあった紙片を見せた。
「詠史くん、沙緒里ちゃんや天理さんたち、夏班の皆をお願い。私は前線に立てないから」
そう言い、駆け出す詠史の背中を見送り、一度大きく瞬きをし、口を開く。
「ぴんぽんぱんぽーん! 夏班班長、早川綾音からのお知らせでーす。これより、『初雪奪還戦』を行います。手の空いている四季紡ぎは今すぐ出動するよーに。これは私たちの初陣です。間違っても国民の皆様に死に体は晒さないでね。前線に出る者、後方支援をする者は転移所へ。それ以外は本部へ集合せよー! 以上で放送を終わります。ご武運をー……これで聞こえた、かな? 初めてだけど」
その場で叫んだだけの声。
ただし確実に届くその声を聞いた「彼ら」は、すぐに動き出す。
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魁來。(プロフ) - 終了しました (2017年12月1日 6時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
魁來。(プロフ) - 更新します (2017年12月1日 6時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
トウキビ(プロフ) - 更新しました (2017年11月25日 19時) (レス) id: 897976709d (このIDを非表示/違反報告)
トウキビ(プロフ) - 更新します (2017年11月25日 19時) (レス) id: 897976709d (このIDを非表示/違反報告)
フリダ‐(プロフ) - 更新終わりました。 (2017年11月24日 19時) (レス) id: f3285e7d53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:四季紡ぎ。作成メンバー x他9人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月12日 22時