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みんなで夕食を食べてからそれぞれの部屋へと戻って、江と私は順番にお風呂に入った。
江が入っている間に、ケータイを開いてメールを送る。
去年まで全然帰ってこなかった返事は、今では数分で返ってくるようになった。
『ちょっと飲み物買ってくるね、江何か欲しい?』
江「一緒に行こうか?」
『まだ髪濡れてるでしょ。自販機行くだけだから大丈夫』
江が出てきたタイミングで、そう声を掛けて私は1人で部屋を出た。
エレベーターに乗って2階で降りる。
廊下を進んだ先にある自販機まで来れば、壁に寄りかかるように立っている人物の目が合った。
『…おつかれ』
宗「おう」
私が来たことを確認した宗介が、壁から背中を離してこちらにやってきた。
宗「風呂入ったのか」
『うん』
すぐ戻る予定だったから、半袖にハーフパンツの部屋着で来てしまった。宗介は未だにジャージだから、まだお風呂は入っていないようだ。
宗「なんか羽織ってこい、風邪引くぞ」
そう言いながらジャージを脱ごうとする宗介をすぐに戻るからと止める。
何となく宗介の顔色が悪い気がする。
『…痛むの?』
宗「…問題ねえよ。んな顔すんな」
そう言いながら片手で両頬を軽く潰される。
変な顔になったのか宗介が小さく笑った。しかし、それに抵抗する気にもなれない。
宗「いつも通りでいてくれ」
『…無理だよ。でも、もう泣かないから』
私がそう言うと、宗介が少しだけ目を見開いた。
そんな宗介に、ポケットの中に入っていたものを差し出す。
『これ、小さいから持ち運びしやすいと思う。もう持ってたら予備として貰って』
ポケットにも入るサイズの冷却スプレー。
どれくらい酷いのか分からないが、少しでも役に立てばと思って持ってきた。
宗「…ありがとな」
お礼を言いながら宗介はスプレーを受け取ると、自分のジャージのポケットに入れた。
『…ねぇ、やっぱり』
本当はそれを使うほど悪化しているなら、泳いで欲しくない。
そう言おうとしたが、それを遮るように名前を呼ばれた。
宗「もう決めたことだ」
真っ直ぐに目を見つめられながらそう言われて、また鼻の奥がツンとした。
バレないように視線を逸らして自販機へと向かう。
自分の分と江に頼まれた分の飲み物を買って、宗介へ背中を向けた。
『…無理、しないでね』
そう言って私は自分の部屋に戻るためにその場を離れた。
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作者名:アコ | 作成日時:2023年9月10日 4時