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宗「…なんの事だ」
『貴澄に聞いたの。病院で会ったって』
私がそう言うと、宗介は小さく舌打ちをした。
視線を下ろせばぐっと握りしめている拳が目に入った。
数歩進んで、離れていた距離を縮める。そして、そっと宗介の拳に触れた。
『お願い。帰ってきた本当の理由を教えて』
私の方をチラリと見て、宗介は悔しそうに顔を歪ませた後、深く深く息を吐き出した。
ぽつりぽつりと喋り始めた宗介の話を、私は聞き逃さぬように真剣に聞いた。
夢のために東京の高校で練習を頑張っていい成績を残したこと、しかし練習を続けるごとに肩に違和感を感じていたこと。
そして、ついに肩が壊れてしまったこと。
『…高1』
宗介の話を聞きながら息が止まりそうになる中、かろうじて呟けたのはそれだけだった。
よくよく思い返してみれば、高1の夏頃から宗介の連絡が少なくなっていた。
あの頃から宗介は苦しんでいたのに、私は連絡してくれない宗介に怒っていた。
どうして宗介になにか起きたのかとか思わなかったのだろうか。そんな自分に腹が立った。
宗「そしてある日気付いちまった…俺の夢は、もう叶わない」
俺は水泳をやめることにした
その言葉に呼吸が止まった気がした。
宗「けど去年の地方大会で凛が七瀬たちとリレーを泳ぐ姿を見た。そん時、最後に凛と本当の仲間になりたいと思ったんだ」
「これが俺が帰ってきた理由だ」と話を終わらせた宗介は苦笑していた。
だけどその顔も、私の視界からどんどん歪んでいく。
上手く言葉が出てこなくて、私は「なんで」という言葉ばかり繰り返した。
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作者名:アコ | 作成日時:2023年9月10日 4時