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結局何を落としたのかも教えてくれないまま
気付けば頂上に着いた。
「うわー、やっぱ綺麗だねー」
本来の目的も忘れてうっとり。
数日前にも見た目の前の夜景に、
もう一度心奪われていた。
「ほら見て!あっち観覧車見える!」
1人でばかみたいにはしゃぐ私。
はたから見たらおかしな人だろう。
やっとそれに気づいた私は玉森くんの冷たい視線を避けるように、恐る恐る玉森くんの様子を伺った。
せっかく恐る恐る見たのに、タイミング悪くちょうど目が合ってしまった。
目が合った途端、玉森くんが話し出した。
「平野、ぜんぜん変わんないね」
「な、なにそれ。どういう意味よ」
「小学生の頃のまんま。
目の前のことに一生懸命でさ」
「それ、すっごいバカに…」
「ぜんぜん変わんないからさ」
小学生の頃と一緒なんて。ひどい。
バカにされたと思って、
反論しようとした声は遮られた。
「…」
どこか真剣な目つきを見た私は、それ以上の言葉を飲み込んだ。
「安心する」
安心する。
いつもならすぐにわかるはずな、
そんな簡単な言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
そう言ってくれたことが嬉しくて。
現実感のないまま今の言葉を受け入れるのに専念する。
「ふふ、なんか嬉しいかも」
少し照れながら笑いかける。
返ってきた笑顔と、綺麗な目に囚われて動けなくなる。
見惚れて、口も開きっぱなしだったかもしれない。
そんなまぬけな顔をしている時、
少しずつ近づいてきた玉森くんの整った顔に違和感を覚えることなく
2人の唇がそっと重なった。
多分時間でいうと1秒ぐらい。
いや、もしかすると5秒?
時間の感覚もなくなるほど、何も考えられない。
甘い唇に毒されたように、ただ呆然と立ち尽くしていた。
やっと今起きたことが理解できた時。
キスされたんだとわかった時。
今だ。
今しかない。
無意識のうちにそう考えた私の口から、ついさっき自覚したばかりの想いが溢れ出た。
「玉森くん…好き…」
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作者名:None | 作成日時:2018年2月27日 17時