第32話 ゴール前の希望 ページ32
「そういうことだったんでヤンスか!」
「……でも、本当にそれでよかったのか?
どんな状況でも全力で戦う、それが俺たちのサッカーだろ!」
「フッ、土門の言う通りだぜ。円堂を犠牲にして
俺たちだけ助かって、そんなの雷門のサッカーじゃねえ!」
納得した様子である栗松くんの声の後に、
土門君と染岡君が反論の声をあげる。
有人は再び私の方を見てきたが、私は肩をすくめてみせた。
彼らの考えることは自分にはまだよくわからない。
「それは違う!」
「「「……円堂!」」」
ようやく秋に手当てを受け終えたらしい守が、
しっかりと服を着てキャラバンから降りてくる。
やっぱ、キャプテンがなんとかしてくれなくっちゃね。
「円堂! 動いて大丈夫なのか?」
「平気、平気っ! こんな傷、へでもねえ、って、痛った……!」
肩をぐるんぐるんと回して調子に乗るものだから、
腕に痛みが来たらしい。
後ろで呆れた夏未が腕を組みながら言う。
「調子に乗り過ぎよ」
「で、どういうことなんだよ。それは違うって」
「監督は奴らを使って、俺を特訓してくれたんだ」
まだ納得のいっていない染岡君に、
守が笑顔のまま説得を始める。
説得に聞こえない語り口調ではあるのだが。
「特訓?」
「ああ! 奴らのシュートを受け止めるためには、
実際に受けながら特訓するのが、一番の近道だからなっ」
一理ある。だが、相変わらずの滅茶苦茶な特訓だ。
「Aがあの時、奴らのシュートが見えないんだろう
って俺に聞いたのは、そういうことだよな?」
「えっ? う、うん、まあ……」
良い言い方をすればそういうことなのだろうが、
そんな綺麗なものではない。
だから言葉を濁すような返事をしてしまった。
まさかそれであの作戦を実行しようかどうか
迷っただなんてことは、もう言えない。
「おかげで最後の最後、ちょっとだけ奴らのシュートが見えた!」
「っ! 本当か、円堂!」
「うん、それに奴らの必殺技も経験できた!
凄かったよなあ、あの必殺技! 今でも手がヒリヒリしてらあ!」
両手をぐっと握りしめながら語る様子は、
本当に楽しそうなもので。
「でも、思ったんだ、俺。これなら取れないことはない、
もっともっと特訓して、力をつければ必ず取れるって!」
「つまり監督は今日の試合を捨てて、次の試合に勝つために僕たちの
身を守り、円堂君にキーパーの練習をさせていたということですね!」
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作者名：フェイル | 作成日時：2014年8月1日 0時
