Unknown 5 ページ10
椅子に体育座りした依頼人の横で女性の警官が「何か温かいもの飲む?」と尋ねている
依頼人は顔を膝にくっつけたまま首を横に振った
まだまだ若いのに間違いなく今日の出来事は彼女のこれからの人生に暗い影を落とすだろうと思うといたたまれなくなる
もし俺がかけつけられなかったら彼女は今ごろ…
そう考えると自分のことでもないのに悪寒が走る
「すいません、詳しい話を聞きたいんですが」
若そうな警官が書類を手に持ち女性の警官に言った
冗談じゃない、依頼人はまださっきのことから回復できていない
「俺が代わりにわかる範囲で話します」
「あ、じゃあ本人からは後で聞くとして…まあ今は無理でしょうからね、あなたの話から聞かせてもらいます」
「あの、ちょっと」
指を曲げ、警官を呼ぶ
「本人の前でするのもなんですし、奥の部屋使わせてください」
若い警官にそう耳打ちしたあと、俺たちは奥の部屋へと入った
一通り説明した後現場に行くことになった
(壁のひび、なんて説明しよう…)
若い警官に続き奥の部屋を出ると、まだ依頼人は震えていた
もしかすると男の俺が話しかけるのは彼女にとっては辛いことなのかもしれない
が、やはり当事者には状況を説明すべきだろう
とりあえず彼女の座っている椅子の前に膝立ちになり話しかける
「今からお巡りさんと一緒にAのアパート行ってくるぞ?
ここには隣の女性のお巡りさんが一緒にいてくれるから大丈…」
途中で依頼人は急に顔をあげ、涙ぐんだ目で俺を見るとまた顔を膝にくっつけながら
「霊幻さん行かないで…」
と蚊の鳴くような小さい声で言った
「もし現場にあいつがいなくても俺がはっきり顔を覚えているから大丈夫です」
さすがにあんなことを言われれば現場に行くことはできない
俺はしばらく依頼人に付き添うことにした
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作者名:出島 | 作成日時:2016年9月5日 22時