朝陽 ページ10
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車内ではやっぱり何も話さなかった。ひたすらにビル群の隙間を走ってゆく。ガラス張りの窓が藍色に光る。
「霧立さん」
目的地に着いたのか、風見は口を開いた。だがその先に彼が続けた言葉に、霧立は驚くことになる。
「これは、お願いなのですが」
風見はそう前置きした。
「今日、一緒にいてもらえませんか」
霧立は思わず息を飲み、彼の真意を推し量るようにじっと彼の切れ長な目を見つめた。
「え……でも」
「嫌ですか」
意地の悪い訊き方をしたのは風見も自覚していた。こう尋ねては、霧立はそれを否定するしかなくなるであろうと彼は分かっていた。
「嫌じゃあないけれど」
「どうか、お願いします」
霧立の不安げな目を真っ直ぐ見れば、彼女は少し視線を外した。風見は彼女が自分の目に弱いことを知っているのだ。
「……分かった、けど」
ふい、とそっぽを向いて霧立が続けた。
「変なことは、しないでよ」
風見から少し笑いがこぼれた。それは受け入れられたことによる安堵からか、あるいは彼女の言葉の微笑ましさからか。
「ええ、もちろん」
風見の自宅は米花町からそう遠くはなかった。
古くもなければ新しくもない、ごく普通のどこにでもあるようなマンション。もし、宇宙人にマンションとは何か、と説明する際には、この建物の写真を使うべきだろう。
駐車場で車から降りると、東の空が明るいことに気が付いた。
「あ……」
夜が明ける様子に思わず目を奪われた。藍色が薄い青に変わり、ジュースのような橙がさあっと広がる。金色の太陽がゆっくりゆっくり昇ってゆく。
霧立は息をするのも忘れて、景色を見つめていた。無心で朝の訪れを全身に浴びる。胸が締め付けられ、手をそこにあてがおうと動かすと風見の手の甲に触れた。
「大丈夫ですか」
風見の乾いた手のひらが霧立の手を包んだ。指が絡まり、擦れ合う。
「つい、見とれちゃって」
「ええ……」
風見は朝陽を見つめたままで答えた。
「美しい、ですね」
やがて太陽が昇ると空は透き通った水色に染まる。
「行きましょうか」
こんな中途半端なことはしない方がいいに決まっている。だが、霧立は躊躇うことなく頷いた。
風見も霧立もこのことは散々に考え抜いた。その上で互いの手をとったのだ。
未来の保障がないとして、気持ちを押さえつける理由にならない。覚悟も苦悩も、もううんざりするほど自問自答し続けた。
「ええ」
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夢主の趣味は読書。
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (
レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません（涙） 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます！ (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長谷夏子 | 作成日時：2018年7月26日 12時
