手紙 ページ50
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瞼を開いて上体を起こすと、そこは風見の自宅のベッドであった。お互いに下着姿だった。どうやらそういうことらしい。夢の代わりに、昨夜の記憶が浮かび上がってきた。
「……おはようございます」
Aの気配を察したらしい風見が、眠たそうな掠れ声を出した。
「おはよう」
「どうかしました？」
上の空な彼女を訝しく思った風見が尋ねる。
「何だか変な夢を見たんだ」
「夢？ 悪夢ですか？」
「いや、嫌な夢ではなかったんだけど……。駄目だ、思い出せない」
考え込んでみるも、もう夢の記憶の部分は真っ白になってしまっている。
「そうですか」
正夢だったりしますかね。風見はぼんやりとそう言った。
「どうだろうね。そんなことはないとは思うけど」
彼女は半ば無意識にそう答えていた。それほどリアリティのある夢だったようには思えない。無論、思い出せない以上何とも判断はつかないが。
「まあ、とりあえず……」
そう言いながら、二人で横になるには狭すぎるベッドに再び逆戻りする。
「もう少しゆっくりしてたい」
「それは構いませんけど、時間は大丈夫なんですか」
既に眼鏡を掛けていた風見は気遣わしげに訊いた。するとAは、鼻まで掛け布団を引き上げ、恥ずかしそうに小さな声で答える。
「……非番に決まってるじゃないか。無粋な人だな」
ふ、と笑った風見は、枕元に置いてあるものに気付いた。文庫本だった。アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」である。
「Aさんのですか？」
少々日に焼けたそれを手に取り、尋ねる。
「いや、違う。でもどこかで……」
急に思い出した。五月の始めに入院していたとき、ベッドの側にあったものとまったく同じだ。
「あなたのじゃないの？」
「俺のではありません。すると……」
Aから乾いた笑いがこぼれた。まさか、そんなことがあるはずがない。
「ああ……もしかしたら、忘れていただけかもしれません。つい最近、本棚の整理をしたばかりなので」
「何だ、驚かせないでよ」
二人はほっとしたように息をつき、布団にくるまった。
だがこの後、その古い文庫本に挟まっていたメモを目にしたとき、二人がしばらく凍りついたのは――
「まさか、冗談でしょ？」
「……信じられませんね」
――また、別の話だ。
『Aへ
婚約おめでとう
諸伏景光』
終わり
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終わり
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (
レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません（涙） 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます！ (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長谷夏子 | 作成日時：2018年7月26日 12時
