隠蔽 ページ5
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それから二人は不気味なほどにいつも通りに応対した。多少はぎこちなかったかもしれないが、少なくとも人目につくようなことはなかった。
感情を圧し殺したまま、季節がひとつ巡ろうとしていた。クールビズのスタイルの捜査官は減り始め、風見のワイシャツも以前の長袖のものに戻っている。
風見は相変わらずもやもやとした気分で毎日を過ごしていた。表情を抑えるのも慣れたもので、時折じっと彼女を見つめてしまうこと以外にはそれらしいことはない。だがその見つめる先にいる霧立の方は、いささか変化が顕著に現れている。丸く愛らしい雰囲気だった頬は多少削げ、顔色が明らかに青白くなった。
「風見、これも頼んだ」
「はい。こちらは終わりましたので、確認お願いします」
「ああ……ありがとう」
疲れた様子の霧立は、ここ二日ほど寝ていないはずだ。風見と同様に。そんな彼女をこの腕で抱き締めることが出来たらどんなにいいか。だが、それは叶えられることはない。そもそも風見にはそうする理由も資格もないのだ。
「お疲れですか」
「ええ、まあ」
霧立は曖昧に返事をした。
「あと一晩あれば、片付くさ」
「……そうですね」
思わず、霧立の背姿を見つめてしまった。彼女はそんな風見を女々しいと嘲るだろうか。あるいは、その唇で優しく慰めるだろうか。
寝不足のせいか頭がぼんやりとしている。さっさと仕事を終わらせ、一刻も早く横になりたい。その一心で、必死に手と脳をフル回転させた。
「風見」
声とともに、一心不乱に仕事をしていた風見のデスクにことり、と缶コーヒーが置かれた。その音に我に返ると、霧立が照れたような不機嫌そうな顔で立っていた。
「あげる」
「……え?」
「間違えたんだ。コーヒーは好きじゃないのに」
確かに彼女の左手には紅茶の缶が収まってはいる。しかしいくらなんでも、と風見は考えた。しかも、この缶コーヒーは風見が好んで飲む微糖仕様のものだ。
「……そうですか。では、ありがたく頂きます」
霧立が去ったあとで風見は缶コーヒーを飲み干した。中身はあまり冷たいとは言えない。そもそも、缶を渡された時点であまり冷たくはなかったのだ。
ごみ箱に放ってしまおうとして踏み留まる。給湯室へ行き先を変えた。自分でも、なかなか薄気味悪いとは思うが――バレなければいい話だ。
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作者の勝手な裏設定
夢主の趣味は読書。
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません(涙) 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます! (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2018年7月26日 12時