正体 ページ40
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「分かってる」
霧立は鋭い目付きで唇を噛んだ。しかしそのとき、事態は急展開を迎えた。背の高い影が横から飛び出し、男の腕を掴んで、ものすごい速さで上へ捻り上げたのだ。
その勢いで、犯人は思わず引き金を引いた。エントランスに女の鋭い悲鳴がつんざいたが、銃口は既にもう天井へ向けられていて、銃弾は照明を破壊するだけにとどまった。
「警察の者だ。大人しくしろ」
影は低く通る声で言った。その隙に少女は男の腕を脱け出し、目暮たちに保護された。その様子を見て、コナンが驚きつつも胸を撫で下ろす。
男はそれでも抵抗したが、影の前には単なる悪足掻きに過ぎなかった。影の正体に驚く捜査陣を気にすることもなく、彼は赤子の手を捻るように簡単に、男を床に押さえつける。
「どなたか、手錠をお願いします」
その言葉に、高木が近付いて男の両手首に手錠をかけた。
「午後六時二十六分、確保」
途端に場が安堵の空気に包まれる。刑事たちはホテルの従業員や宿泊客への対応を始め、男は警察官に連れられ、パトカーに乗り込んでいった。
すべてが落ち着いたころ、秘書の一之瀬朝子は、霧立におずおずと尋ねた。
「先ほどはありがとうございました。……なぜ私を信用してくださったのですか。こう言ってはなんですが、あのときの私は最も疑わしかったはずです」
「それは……」
彼女は静かな声音で答えた。
「あなたが涙を流していなかったからです。仲がいいと周りに認識されていたのなら、泣きわめいてみせた方が疑われなくて済むでしょう。しかしあなたはそれをしなかった。だから、犯人ではないと思いました」
それを聞くと、一之瀬朝子は眉間に皺を寄せて瞼を伏せた。彼女の目に薄く浮かんだものは、きっと見間違いだろう。
「お世話になりました。ありがとうございました」
他の捜査員にも同じように頭を下げる彼女が、なぜ恋人である社長と上手くいっていたのか分かった気がした。
「それで、どうしてここに?」
背の高い影――風見裕也に話しかけると、彼は淀みなく答えた。
「どうもこうも、あなたを迎えに来たんですよ。そうしたら拳銃を持つ男がいるじゃありませんか」
「それで、洋画のヒーローばりに登場したってわけか」
「惚れ直しました?」
からかうような風見の問いに、微笑して頷いた。
「まあ」
ほんの少し触れている肩と肩。それ以上近付きもしなかったが、離れもしない。
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作者の勝手な裏設定
夢主の趣味は読書。
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません(涙) 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます! (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2018年7月26日 12時