遂行 ページ23
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「社長に用があるのだけど、ここには来ていないの?」
「そうね、探してはいるのだけど、見当たらない。おかしいな、今日は参加すると聞いているのに」
千野が先ほどから周りを窺っているのにはそういう理由があったようだ。霧立自身も会場を見渡してみるが、ターゲットらしき人物は目に入らない。
「もしかしたら、奥の部屋にいるのかも」
「奥の?」
「ええ、いくつか緊急用に取っているのよ」
そう言って、彼女は奥へと続く廊下にちらりと目線を送った。電気はついておらず薄暗い。
「防犯カメラは?」
「入り口に二つとエレベーターホールに一つ。この会場にも個室にもないわ」
声を潜めて会話をしながら、二人は人を避けて進んだ。廊下とパーティーホールの境界には「staff only」の立て看板はあるものの、誰でも侵入することが出来そうだった。
「何分必要?」
「十分もあれば余裕さ」
霧立はそのまま素知らぬふりをして奥へ行き、千野は近くの招待客と話しながら入り口を見張った。
ドアを軽快にノックし、声をかける。
「百谷社長? いらっしゃいませんか?」
だが反応はなく、ノブを下げるとドアはすんなりと霧立を通した。
その途端、霧立は凍りついた。何だこの状況は。ターゲットは確かに目の前の椅子に腰掛けていた。だが、彼は身動きひとつしない。
「……え」
百谷社長は椅子の背もたれに体を預け、無防備に喉笛を晒している。その喉はかき切られているようで、着ているシャツは真っ赤だ。
「どうして死んでるんだよ……」
咄嗟に駆け寄ろうとは思ったが、それはあまり賢明ではないだろう。何せ辺り一面が血の海で、下手をすれば足跡が残ってしまう。
それに――この言い方はよくないが、どう見ても彼は死んでいた。
だが任務は遂行しなければならない。霧立は遺体に向かって手を合わせ、頭を垂れた。刑事として人間として、彼を無視することも出来ない。せめてもの弔いの気持ちだった。
少し離れた場所にあった彼の鞄のポケットに、薄くて平べったい固いもの。USBメモリだ。
それから痕跡を残さぬよう慎重に遺体に近付き、携帯電話をジャケットの内ポケットから抜き取る。
「まずいな」
そろそろ十分が経過する。彼女は長いドレスの裾を捲ると、左の太ももに巻いていたポーチに二つとも収めた。
何事もなかったかのように外に出ると、千野に手招きをした。怪訝な顔をする彼女にシナリオを耳打ちする。
「……了解」
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作者の勝手な裏設定
夢主の趣味は読書。
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません(涙) 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます! (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2018年7月26日 12時