鼓動 ページ3
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「いい車だな」
落ち着いた銀色の車体に流れるようなラインが、霧立の目を惹いたようだった。
「ありがとうございます。一目惚れしまして」
それきり、二人は口をきかなかった。霧立は窓の外をずっと眺めていた。もう外はとっぷりと日が暮れ、見えるものなど何もないというのに。
灰色のタイトスカートを軽く引っ掻く彼女は、震える息を吐いた。
風見は車を停止させた。口を開くのが躊躇われ、彼は理由をつけてそれを先延ばしにする。まだシートベルトを外していない。サイドブレーキをかけていない、と。
「霧立さん」
思わず声が詰まった。今日が終われば、すべてがなかったことになる。この感情に区切りをつけなくてはならない。
「着きましたよ」
霧立は何も答えない。風見がシートベルトを外し、体ごと彼女の方を向く。
「大丈夫ですか」
かちりと小さな音を立て、霧立のシートベルトを外した。やはり彼女は何も言わない。その代わり、少し彼女の脚に触れた風見の手に自分の手を重ねる。
「霧立さ……」
「少しだけ、だから」
温かい彼女の手が風見の手を包む。やがて体温は融け合い、風見は指同士が絡むように繋ぎ直した。
その手を離すのがどうしても惜しい。いっそのこと、本当に手のひらが融け合って繋がってしまえばいいのにとさえ思えた。
霧立の肩を引き寄せ、腰を抱く。ジャケットを着た背中に腕を回した。
「A、さん」
堪えきれずに名を呟けば、彼女はびくりと体を跳ねさせた。風見のたくましい背を抱き締めている腕に、力が込められる。
そのうちに、互いの心臓の鼓動がだんだんと共鳴していくのが分かった。甘い息が首筋に当たり、肌が粟立つ。
燃え上がりそうに熱い感情が喉に引っ掛かる。それなのに、吐き出すことは叶わない。それだけはしてはならぬと自制心が風見に囁きかけた。
「……裕也さん」
その微かな声が耳に届いた瞬間、風見の身体中の血が沸騰し、かっと熱くなる。
風見は一旦身を離し、眼鏡を外す。熱い視線で霧立を射れば、意図を承知したように瞼を伏せた。
薄い月明かりが彼女の顔に影を落とす。ゆっくりと顔を近付け、そして、唇を重ねた。
名残惜しむかのように、唇同士を擦り合わせる。
「……じゃあ」
もう、互いの表情を見ることは出来なかった。
霧立は睫毛を湿らせながら振り向かずに闇に消え、風見は目元を片手で覆い,唇を噛み締めた。
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作者の勝手な裏設定
夢主の趣味は読書。
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません(涙) 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます! (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2018年7月26日 12時