決意 ページ15
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「なるべく早く、戻ってくるから」
そう言って彼女は、二度と戻ってくることはなかった――わけもなく、一時間もしないうちに、助手席の窓を叩いた。
「早かったですね」
助手席に乗り込みシートベルトをつけた霧立は、先ほどよりもきちんと化粧をしていた。服装もスーツから私服へと変わっている。
「あんまり待たせるわけにはいかないから」
「それはどうも」
カットソーにジャケットを羽織った風見は、着けている腕時計で時間を確認した。
「もう十時ですか。今日のご予定は?」
「別に、なにもない。風見こそないわけ?」
風見は頷いて答える。
「……元はと言えば、私が一緒にいて欲しいと頼んだものですから。霧立さんに合わせますよ」
霧立は顎に手を当てて考え込んでしまった。
「そんなこと言われてもなあ」
困ったように風見に笑いかけると、彼女は何気なく言う。
「風見と一緒なら、何だっていいよ」
風見はため息をついて車を発進させた。することがないのなら、徹夜明けにわざわざ出歩く必要はない。
「……じゃあ、今日はのんびりしましょうか」
穏やかに微笑むと、霧立の頬にほんのり赤みが差す。
「……戻る?」
「それでも構いませんが……」
その言葉を聞くと、霧立はハッとしたように一瞬目を見開き、それから風見から目を逸らして答えた。
「それで、いい」
助手席から降りると、霧立の履いているチノ素材のスカートがふわりと風に揺れた。
「ね、もう少し寝ない?」
「お疲れですか」
「ちょっと肌が荒れ放題なんだ。ケアはしたけれど、寝なきゃあ治らないんだよ」
女性は大変だ、と風見は改めて思った。
肌も髪も手入れし、体型にも気を配る。服装にもセンスが必要だ。化粧道具なんか、必要なものをすべて揃えなおかつ消耗品であることを考えると、かなり値が張るだろう。
「大変ですね」
風見の心から感嘆に、霧立は少し笑った。
「ああ、そりゃあもう」
彼女は深く頷いたが、でもと続ける。風見が部屋の鍵を開けて霧立を通すと、続きを促した。
「風見がほんのちょっとでも褒めてくれれば、報われるからさ」
その言葉に胸がかあっと熱くなる。風見はその衝動に任せて、振り向きかけた霧立を背中から抱き締める。
「風見……?」
驚きつつも少し嬉しそうな、照れた声。風見は心を決めた。
「Aさん」
慎重に、ゆっくり切り出す。
「俺と結婚してください」
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作者の勝手な裏設定
夢主の趣味は読書。
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長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» コメントありがとうございます。そろそろ佳境ですので、更新頻度を上げて頑張りますね。よろしくお願いいたします。 (2018年11月10日 7時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーやっぱり私の頭では迷宮入りしてしまう殺人事件でした。次の話が待ち遠しいです。 (2018年11月10日 1時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 長谷夏子さん» そういえば書いてありましたね(汗) ちょっと頭を捻ってみます。 (2018年10月18日 20時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - たんぽぽ珈琲さん» この作品にもコメントしていただいて、大変嬉しく思っています。名前には数字と時間帯を入れてみました。ネクストコナンズヒントは「ハイヒール」ですよ(笑)応援ありがとうございます。精進して参りますのでよろしくお願いいたします。 (2018年10月18日 18時) (レス) id: 19bd7edd69 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - え、えーっ。そんないきなりそう聞かれても困っちゃいますね……名前に数字が入っていることくらいしか分かりません(涙) 犯人が誰なのか気になりますね。作者さんの作品全て応援してます! (2018年10月18日 17時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2018年7月26日 12時