33 ページ33
.
言葉のかわりに、涙が溢れた
眼を開いた秀一は驚いた素振りのあと少し笑ってから私の涙を拭った
「参ったな、これじゃあ帰るに帰れない」
「ごめ、ん、なんか色々考えたら、悲しくなって」
私の頭をくしゃりと撫でた彼は、そのまま私を引き寄せ抱きしめた
「…少し冷えたな
温かいココアでも？」
「秀一を溶かして飲むとしますか」
「……それは…目に入れても痛くない、そんな表現か？」
顎に手を添え、私の言葉を必死に掘り下げようとする姿が、無性に愛おしくて
「ふふん、特に意味はない！と見せかけて食べちゃいたいほど可愛いって意味かなぁ」
ありのままの言葉をぶつけると、心配そうに私を見下ろした
「Aの感性がたまにエラーを起こしている気がして仕方がない」
冗談がたまに通らない時もあるけれど、それも全部彼の魅力だ
「心配性なだけだよ
秀一、ココアお願い ミルク多めで」
「承知した 飛びきり甘いココアにしよう」
シャツの袖を捲り、やる気を見せる彼
好きになってしまったが故なのか
腕に見える血管さえも、かっこいいなんて思った
末期だわ
「ココア作るだけで、腕捲りするかな」
「こうした方が上手くできそうに見えるだろう？」
「なによそれ」
複雑に絡まった糸が、ほんの少し解けたような
そんな穏やかさを噛み締める
存在することのなかったこの安寧の地に、浮き足立つ感覚
私は上手く歩けているのだろうか
彼らの目的の先に、私はきっと邪魔でしかない
思惑を他所に、心の底から安堵する日は
「うん、美味しい」
「これくらいはお手のものだ
あと、薬を忘れるなよ」
私の死を意味する
上着を羽織り帽子を被った彼の姿がどうしようもなく非現実的に見えて目を伏せた
「ありがとう、いってらっしゃい」
「…あぁ
見送りはいらない、あまり動くなよ、A」
「はーい」
触れるだけのキスをしてから、戸を閉めた秀一
名残惜しさから、私はマグカップに口をつけた
何か言いたそうな顔をして何も言ってこないのを見ると、まだまだ私じゃ頼りないのだろうと、変に落ち込んでしまう
それを紛らわすように、残ったココアを一気に飲み干した
「やけ酒したい…！！」
大人しくしろなんて命じられると余計に出たくなるけれど、今日は確実に安室が来るであろうから、それは許されない
「よし、買ってきてもらおう」
直後、独り言が大きいなと秀一からメールが来たのは言うまでもない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 82人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みんじろう(プロフ) - RIOさん» RIOさん、コメントありがとうございます！好きなものが増えて手に追えなくなってはいますが、映画を鑑賞し感情爆上げにしてきます！！最新のはレンタルが出たら…！！すぐに見たいです！！！ (2022年5月30日 9時) (
レス) id: acc7c19a08 (このIDを非表示/違反報告)
RIO - 小説読ませてもらっています！更新待ってます！！ (2022年5月29日 23時) (レス) @page31 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みんじろう | 作成日時：2020年10月27日 10時
