物語の始まりだ (ページ9)

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第9話ページ9

「立ち上げ当時からMANKAIカンパニーの役者は男性だけなんです。
　伝統的に、女性の役も男性が演じます。」
「そうなんですか。」
「じゃあ、やっぱり、今回も誰かが女装するんですか？」
「初代春組には女形って言われてる
　女装のうまい役者がいたんですけど、どうですかね……。」
「このメンバーで女装するのはちょっとチープになりそうで怖いかな。」

確かに。と言っても至の顔立ちは綺麗だし、女装も似合いそうだな、
とふとAは考えたが。

「そこは、任せてもらえませんか。」
「……わかった。綴くんを信じるよ。」
「っす。」

「それじゃあ、脚本のことは綴くんに任せて、今日は解散。
　明日は平日だから、咲也くんと真澄くん、それにAちゃんは学校だよね。
　遅刻しないようにね。」

それに返事する真澄は、監督一筋の返事でAは苦笑しつつ
「はい、わかりました。」とだけ返事をした。

稽古場を出るとAの目に綴の後ろ姿が映る。

「皆木さん？」
「ああ、藤宮さん、どうしたんだ？」

目線を合わせるとやっぱり会ったことがある気がした。
それでもAはこれだけは伝えたいと思っていた。
自分の過去なんて今はどうでもよくて、この公演が成功するのに
賭けようとAは腹を括ったのである。

「私、前の劇団で脚本書いていたので……何か訊きたいことがあれば
　いつでも言ってください。可能な限り答えますから。」

Aがそう言うと綴は大きく目を見開いて少し笑う。

「ありがとう。わかった、何かあったら藤宮さんに言うわ。」

それだけ言って、綴はAの頭にポンッと手を乗っけてから
自室へと戻っていった。

(過去について何も触れられなかった……。
　というより、どうしよう、顔の熱が収まらない……。)

監督に声を掛けられるまで、Aはその場に立ち尽くしていた。