第8話 ページ8
「皆木くんの脚本は次の公演から、ってことでどうですか？」
「次の公演ができるって決まってるんすか？」
「そ、それは……。」
そんな支配人と綴の会話に監督は少し考えて切り出した。
「綴くん、脚本を書くのにどれくらい時間がかかる？」
「習作なら何本か書いたことがあるんすけど、二時間くらいのものはまだ……。」
「そう……。」
確かに二時間もの脚本を書いたことがない人に期限が短い中
任せるのは酷だ。これはAが実際に脚本を書いたことがあるからこそ
余計にそう感じてしまう。
「一週間……一週間だけチャンスをもらえませんか。
それでダメなら諦めます。稽古も出るんで。」
「綴くん……。
わかった。一週間、稽古は出なくていいよ。
その代わり、必ず脚本を一本仕上げて。」
「え……いいんすか？」
「それで中途半端なもの出して来たら、怒るから。」
「怖え……。」
「当然です。この劇団の存続がかかってるんだから。
ただ『書きたかった』っていう自己満足で終わらせないでね。」
「――っす。」
それでも、なぜか綴なら出来てしまのではないか、と
思ってしまったのはAだけなのだろうか。
「綴くん、がんばってください！」
「どんなものにするかは決めてるんですか？」
「初代春組の公演映像を見てから、ずっと頭の中にロミオとジュリエットの
イメージが浮かんでて、それにするつもりっす。」
「イイネ！ワタシ、捕らえられた宇宙人やるヨ。」
「それ、ロミジュリと違うから。」
それとも、ここにいる全員なのか。
「ジュリエットはアンタ？」
「私！？私がやるわけないでしょ。
私はあくまでも監督。もう舞台には立てない。」
そう言った監督にAはふと「この人も演劇に未練はあるのでは…？」
と考える。きっと、Aとは違う形であると思われるが。
(まぁ、本質的には同じなんだろうな。
思ってることが逆なだけで。)
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作者名：甘味処〜奏多〜 | 作成日時：2020年2月1日 20時
