第3話 ページ3
「やっぱり、劇団の監督なんて経験がないと出来ないと思うんです。
あ、もちろん外部のコーチなんかに任せる方法もありますが……。
それでも普段の稽古を見たり、脚本や衣装、小道具などに最終的な判断を
下すのは監督の役目ではないかと私は思っています。
そのような責任のある役職に、まだ20代ながら就くいづみさんを私は尊敬しますよ。」
Aがそう告げると、いづみやその他劇団員はポカーンとした顔でAを見る。
(あれ、私何か変なこと言ったかな……？)
不安になって、謝ろうと頭を下げようとすると勢いよく手を掴まれる。
「あの、ありがとう！！」
目の前からいづみの声が聴こえて、Aの目が見開く。
お礼を言われるようなことを言っただろうか。
「ちょっと、不安だったから。」
そう付け足されて、なるほど、と理解する。
素敵な監督だ、そう思ってAは微笑んだ。
「ふふっ、ますます監督頑張らなきゃなって思ったよ。」
余計なことを言っていないことに安堵する。
しかしその後、Aの顔が強張るまで一瞬のことであった。
「あ、そうだ。Aちゃんさ、もしかして演劇経験者？」
演劇経験者……ただ人が足りなくて誘うために訊かれたのかもしれないし、
純粋な疑問だったのかもしれない。もしかしたら、いづみへの尊敬の言葉を述べるときに
演劇経験者の何かを醸し出してしまったのかもしれない。
「……もしかして、訊いちゃいけないことだった？」
Aの頭に、昔演劇をやってた頃の出来事がフラッシュバックする。
思い出したくなくてしょうがない、あの出来事が。
それでも、半分以上初対面の彼らに心配をかけるわけにもいかなくて、
Aは持ち前の演技力をフル稼働して、笑顔で答えを出したのであった。
「いえ、少し前まで演劇をかじってただけの初心者です。」
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作者名：甘味処〜奏多〜 | 作成日時：2020年2月1日 20時
