物語の始まりだ (ページ1)

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第1話ページ1

２年前、私は演劇を辞めた。
仲間と上手くいかない、脚本が書けない、演技がから回る。
舞台上の空気が悪くなる、不安や焦り、お客さんのつまらなそうな顔。

早く舞台から降りたい。

これが、私の人生で最後の舞台だった―――。

藤宮Aは、花咲学園の３年生である。
ごくごく普通の女子高生……ではなく、家は金持ち、美人、成績は学年トップ、
高嶺の花、周りからは羨ましがられる要素ばかりを
持ち揃えた人間であった。

そんなAは天鵞絨に住んでいる。
今日は学校が休みの日なので、久しぶりにショッピングでもしようと、天鵞絨駅へ向かっていた。

天鵞絨だからか、朝にも関わらず、小さな劇団が至るところでストリートACTをしている。
いつも通りスルーしようと思ったAだが、Aの耳に聞いた事のある声が
聞こえてふと立ち止まる。

「これであったかいご飯を毎日食べられるね、あんちゃん！」

棒読み棒立ち、かえって注目を浴びているその劇団をAは見る。
すると、そこには同じクラスの佐久間咲也がいたのだ。

(佐久間くん、劇団入ってたんだ……。)

Aはなんとなく気になって、その劇団のストリートACTを見ていると、
どうやらその劇団の関係者の女性が外国人に話しかけられているようだった。
そしてふと、視線を外し他の団員を見ると、２年の有名人碓氷真澄と
もう１人、緑色の上着を羽織った大学生らしき人物がいたことにも気づく。

(あれ、あの人……なんだろう、なんだか懐かしい……。)

緑色の上着の男性を見てAはそう思う。
昔、会ったことがあるのだろうか、そう考えたけれど
忘れただけなのかもしれない。

Aはクラスメイトだし、と咲也に話しかけようとするが
それは止めておこうと首を振る。
もう、演劇であんな思いなんてしたくない。

そうして、Aは天鵞絨駅へと足を進めたのだった。