春なんてこなければいい 【Kento.N】

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家への道のりで


また何度もため息が溢れ出る。




結局全部終えたのは、１０時を過ぎた。


会社から家が比較的近い方なのが、唯一の救いだ。









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家の前に着いて鍵を取り出して


鍵穴にさす前に、ふと考える。




・・・・・・・・・Aが、いるんだ。






目を瞑って上を向き


ふう、と１度息を吐きだす。



そして、自分の顔をにいっと動かす。







大丈夫、笑ってる。









鍵を鍵穴にさし、がちゃりと開ける。









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「ただい・・・ま？」

「おかえりなさい。」




扉を開けた瞬間


玄関に正座して待ってるAに面食らいながらも



おかえりなさい、と言う言葉に


ああ、その言葉久しぶりに聞いたなー、なんて思ってた。








Aは棒立ちになってる俺から鞄を奪い取り


スーツの上着も脱がせて


奥に入っていきながら






「ご飯にしますか？お風呂もできてますけど。」




そう、遅く帰ってくるのに文句や疑問も何もぶつけず


ただ、新婚夫婦まがいな言葉を、恥ずかし気な言葉もなく言う。









だけどそれで、それのおかげで


俺は笑ってる。









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「お腹すいたー。今日のご飯何？」

「オムライスです。冷蔵庫のもので作ったんで、大したもの作れませんでした。」

「十分だって！わーいつぶりだろ。」

「てことで、食費と合鍵貰えますか？スーパーに行きたいので。」

「・・・食べてからでいい？」

「忘れなければ。」

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